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春季キャンプも終了間際。
相変わらず晴天続きで心も晴れるが、吹き込む風は冷たいままだった。

そんな中、突如として大谷の結婚報告がSNSで投稿された。世間は騒然、女の気も無かった彼からの発表に山本も驚いていた。

「大谷さん結婚だってー。」

夜、キッチンを区切るカウンターの向こうから食器を洗う伊近を見つめて山本が話す。

「お前はいつ頃になるかねぇ。」

なんて、泡を洗い流す手を止めず、洗い終えた食器を置いていく。
慣れた手つきで、手元だけ見てみれば女性のようにも映る。視線を上げてみれば、そこには下を向いた男の顔があるのだが、それすらも愛おしい。

「俺は作んないよ。お前がいるもん。」

「どうだか。ていうかただの友達なんだし、彼女作りたいなら言いなね。」

" ただの友達 " という言葉が山本の胸にチクリと刺さる。

蛇口を閉め、タオルで手を拭うとすぐそばに置いていたハンドクリームを手の甲に伸ばす。
水ばかり扱っているとすぐに荒れてしまう。温めながら伸ばす伊近の顔には、ハラハラと彼の頬にまで掛かりそうな長い黒髪が落ちていった。
それすらも画になるな、なんて思いながらも山本は脱衣所から伊近がよく使っている髪ゴムを持ってきては彼の背後に立った。

「結んでいい?」

そう言いながら、勝手に髪をまとめだす彼に眉を下げて苦笑いをしながら首を縦に振る。
触れる口実が出来たと内心喜ぶ山本は、拙いながらも手ぐしを通してひとつにまとめる。そのままゴムで縛ってみれば長さが足りず、結んだ先がピンと真っ直ぐになってしまった。

「なんか気に入らん。」

「上手く結べてるやん、ええよええよ。」

自身の頭を触りながらまるで子供を褒めるかのような言葉を口にする。それでも認めてもらえた事が嬉しく、山本は " ふふん " と言ったように得意げに口角をくっと上げた。

「また結んでな。」

振り返った伊近は手を伸ばして彼の頭を撫でてやる。
ベビーシッターをしているからだろうか、子供っぽい彼の扱いが異様に上手く心を無意識ながら満たしていく。

「次は上手く結ぶ。」

そう宣言する彼に「期待しとくわ。」と返事をし、彼に早くお風呂に入って寝るよう促した。
まだ起きとく、なんて言う彼に頭を抱えながらも、彼の背中を押し脱衣所に着替えとタオルを放って半ば強引に扉を閉めた。

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作者名: | 作成日時:2024年3月19日 21時

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