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鍋の蓋を閉め、山本の方へと向き直る。

「なに?」

彼の手を握ってやり、感情が昂っている彼を落ち着かせながら返事を待つ。
高校時代から見て来た彼は、日頃から伊近へ怒と哀を見せて来なかったが、ここ数日でそれらを表に出していた。
余計心を開いてくれたからなのか、それが理由だと嬉しいけれど扱いが分からないのが本音だ。

「…ずっと、お前とバッテリー組んでた時からずっと、お、俺はお前が好きやったし、でもお前は全く俺に見向きもせんし!!」

「うわ急にやめろや。」

突然の大きな声に驚いた伊近はぎゅうっと強く手を握りながら思わず顔を背ける。

「ほんまは告白とかしたくなかったけど、そんな簡単に好き好き言われて、こっちもモヤモヤするしで、」

纏まりの無い文章を、喉で言葉を引っ掛けながら口にする彼を見つめながら首を捻った。
伝わっていないのかと山本は余計何かを話そうとするが、思考すらも纏まっていないようだ。

「俺が好きなんやな?」

「……そう。友情とかじゃない方。」

「恋?」

「……ん。」

キッチンの蛍光灯に照らされる山本は耳を真っ赤にさせ、恥ずかしそうに視線を外している。
伊近は、彼の栗色の髪に指を通して撫でてやり、最後に頬を指先で摘んだ。

「俺も好き。」

口角を上げながら、白い歯を見せてはにかむ。

「…えっ、と?」

「この流れなんやから、俺もお前と同じって気付けや。えっと?ちゃうねん。」

変なところで鈍い彼に、照れ臭そうにしながら説明をする。
「あーもう。」と自身の髪をかき上げて山本から顔を背けた伊近をじっと見つめた後、漸く理解したのかぱあっと表情に花が咲いた。

「したい事あんねんけどさ。」

「なんやの…。」

「……キスしたらあかん?」

「お前早すぎやで行動が。」

いつの間にか2人の瞳の距離はグッと縮まって、少しでも頭を動かせば鼻先が触れ合うくらいになっていた。
呼吸音が伝わり、静かなキッチンに2人の鼓動が響き、お互いの両頬を両手で包む。

そのまま流れるように目を瞑り、背中を預けた先の壁に掛かったカレンダーは2人の足元に音を立てて落ちてしまった。

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作者名: | 作成日時:2024年3月19日 21時

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