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ゆっくりと上体を起こし、眠気眼で山本を見上げる伊近の脇下から腕を入れ、背中に回して抱き締める。
思考も冴えていない伊近は頭に疑問符を浮かべながらも山本の背中にそっと手を置いて、よく分からないまま肩に頬を擦り寄せた。

「…ごめん、出て行ってごめん。」

伊近の後頭部に手を当て、くしゃりと髪を撫でながら山本は謝罪する。
暖かい彼の体温が冷えていた伊近の体に伝わり心地好さが身に纏う。

「少しくらい話聞いてほしかった。」

鼻を掠める外で貰ってきたであろう香水の香りを嗅ぎながら、伊近は彼に切実な思いを吐露する。
その言葉と共に、また抱き締める力は強くなったような気がした。

「由伸は生き急ぎすぎやで。今回の事もそう、野球に関しても少しだけそういうとこある。」

「……どの口が言うてんねん。」

「お前を近くで見て来たのにドラフト掛かれへんかった男の口。」

肩に口を埋め、くぐもった声で話す。
山本は少しの沈黙の後にもう一度「ごめんね。」と謝罪した。頭も冴えた伊近は、「ん。」とだけ返事をして彼の腕の中から抜け出した。

「ご飯食べてきたやろ。これなおしとくわ。」

「……スープだけ、飲んでもええ?」

「ふふ、温めるわ。」

ハンバーグやサラダは冷蔵庫へしまっていく。
イカ焼きも同様に手を掛けたが、「これも食べる。」と彼が静止するため、温め直す為にレンジへと入れた。

スープとイカ焼きが温まるまで、キッチンに2人で立ちながら球場での出来事をひとつずつ説明していった。

「でも、由伸があんな怒るとは思わんかった。」

全てを説明し終わった後で、伊近は目尻にシワを寄せてくしゃりと笑う。
スープも程よく温まり、破裂音を成していたレンジを止めて温まっているかを確認する。
そんな伊近の姿を見つめながら、

「……ほんまに好きやもん。」

と聞こえるように発した。

「はいはい。俺も好きやで。」

流すような彼の発言に、山本はもう一度口を開いた。

「お前の好きと俺の好きはちゃう。」

また怒り出したか、とイカ焼きが乗った皿をキッチンへと置きながら山本を一瞥する。
スープの火を止め、手頃な食器を手にして注ごうとしたが彼が手首を掴んで阻止した。

「…一旦話聞いて。」

と、形勢逆転した彼は真剣に伊近の瞳を見る。

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作者名: | 作成日時:2024年3月19日 21時

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