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「どうしよう。」
と山本は呟いた。
目の前で食事をする大谷は、リスのように頬を膨らませながら「どーしたの。」と問い掛ける。
「……Aと喧嘩したんですけど、あの、A泣いてて…置いて出てきちゃった。」
「うわー。由伸最低だ。」
目の前のステーキをフォークで刺した山本に彼は言う。
「分かってんですけどね…。」と口に運びながら、彼に言い訳をするが大谷は首を捻って納得いっていないようだ。
「あのモニターのやつでしょ？あれ明らかにAくんは嫌がってたじゃん。」
「でも、でも球場に来てた事は確かで、」
「だからそこのところの話をちゃんと聞かないと。」
感情のままに行動した彼を咎めながら、彼は食事を終えた。
山本も納得しているのかしていないのか分からないが、渋々と言ったように頷いてフォークを置く。空になった皿を前に、数個上の大谷からのアドバイスを受けて「分かりました。」と返事をした。
もう外は暗くなっていた。
洒落た街中の街灯は2人の姿を照らし出し、不意に山本は伊近と外食をした日を思い出す。熱愛報道は落ち着いてはきたが、まだ時折話題に出されてしまう。頭を撫でてくれていた事を思い返しながら、駐車場に停めた大谷の車へと歩みを進めた。
「仲直りするんだよ。」
自宅前で降ろした大谷は運転席から山本へ言う。
キャップを外して頭を下げる山本を見てはにかみ、そのまま車を走らせた。
重い足取りでマンションへ向かい、オートロックを抜けてエレベーターへと乗り込んだ。
気持ち悪い浮遊感が体を襲い、落ち着いたかと思えば停止する際にも変に体が浮く。ゆっくりと、着かないでくれなんて願いながら足を動かせば当たり前だが部屋の前に着いた。
ドアノブを握り、引いてみればゆっくりと扉が開いて不用心さに伊近が心配になる。
玄関は暗いが、廊下の奥のガラス扉からリビングの灯りがついている事が確認出来て、起きてるのかと少しだけまた気が重くなる。
「…ただいま。」
小さな声で言いながら、リビングへ顔を覗かせればテーブルに突っ伏して背中を上下させる伊近の姿があった。
時刻にして21時を回っている。山本が出て行って10時間は経っていた。
近付いてみれば眠っている事が確認出来、そんな彼の前にはハンバーグやサラダ、好物のイカ焼きがラップを掛けられ置かれており、キッチンからはスープの良い香りも鼻を掠める。
健気に待ってくれていたのに、と自己嫌悪に陥りながら伊近の肩をそっと叩いた。
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作者名：宮
| 作成日時：2024年3月19日 21時
