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夜が遅い事を言い訳に、彼女は球場前で立ち止まると伊近をホテルに連れ込もうとした。けれど伊近はそれを必死に振り払った。

「 " もう貴女からのシッター依頼も受けないし、俺は貴女の事が好きでもなんでもない!!なんなら嫌いだ!! " 」

両手に拳を作り、大きな声で彼女を拒絶した。
暗くなった空の下、まだ肌寒い中で彼女は伊近へ歩み寄って来て、思わず身構える。その瞬間、バチン!!と大きな破裂音が周囲に響いた。

ジンジンと痛む左頬に、耳鳴りがする左耳を抑えながらフラついた伊近は自身の足元を見つめたまま動けなかった。ハラハラと柔らかい前髪が目元に掛かる。

こういう時だけ女性の筋力は倍以上に強くなる気がする。

「 " 私を振った事後悔するわよ!! " 」

と彼女も叫ぶように言うと、彼女1人車に乗り込んで走り去って行ってしまった。
球場に置いて行かれるなんてまさかすぎる。

痛みが広がり、熱が集中する頬を指先でそっと撫でてみれば、ピリッとした痛みが走り、眉をひそめる。
そんな時、ポケットに入れていた携帯から通知音がなり、気が引けたが取り出して画面を確認する。

" 今日球場いたよね、もう帰った? "

通知バーに表示されるメッセージをタップする。
大谷翔平、との名前を見て安堵しながら、返信をゆっくりと打ち込んでいく。

" まだ球場です。"

打ち込み、送信をしたが携帯画面に大粒の涙が落ちていき、三原色のレンズが水滴を反射させる。

" こっちのホテル来る? "

優しい彼は、自らが泊まっているホテルに誘ったが

" ごめんなさい、別のところに泊まります。明日には帰ります。お気遣いありがとうございます。"

とすぐに拒否をして携帯をポケットにしまう。
止まらない涙を何度も拭い、鼻を啜りながら歩み始めるとすぐにホテルが見えてきた。
小さなところだが、セキュリティもしっかりしているようで屋内へと入室する。

部屋も空いているようでチェックインすると、ベッドだけが置かれる狭いホテルの部屋に通され、携帯と財布をテーブルの上に置いた。

" 折角だし明日も球場においでよ。"

と、大谷のトーク画面が表示されていたが、返事をする気にもならず顔を洗って真っ赤な口紅を落とす。
水が触れる度、頬に痛みが走ると先程の出来事を思い出して何度も涙が込み上げて来てしまう。

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作者名: | 作成日時:2024年3月19日 21時

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