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山本も家に居ない、辞めようと思えば辞められるベビーシッターだが子供は自身を慕ってくれている。夜風が抜けるリビングで晩御飯も食べずに頭を抱えて永遠と悩んでいた。

「うあぁ〜…。」

と息と共に声を溢れさせ、そのままテーブルに突っ伏してしまった。一日の疲れからか、瞼は次第に落ちていき、いつの間にか眠りに付いていた。


何故、彼女の車で遠出しているのだろうか。

「 " 子供たちは…? " 」

と、助手席で恐る恐る問い掛けてみれば、

「 " 叔母に預けてるから大丈夫よ。" 」

なんて彼女は白い歯を見せる。
サングラスを掛け、太陽に向かって車を運転させる彼女の言葉に「あぁ…。」と呟いて会話をやめた。
着いた先は球場で、伊近は言葉を詰まらせる。
彼女は伊近の腕に自身の華奢な腕を絡めて引っ張って連れて行く。チケットも取っていたようで、簡単な料理を購入して球場に足を踏み入れる。

「…最悪。」

ぽつりと呟くが、彼女には伝わっていないようだ。
青に染まる球場に伊近は胸が強く震えた。雲に隠れていた太陽が、切れ目からスポットライトのように球場に光を与える。

内野席で、ドジャース側のダグアウトに近い場所。
またも「最悪や。」と頭を抱える伊近だが、彼女はデート気分なのかいつにも増して気分上々だった。
10歳も若く、甲斐性の無い男のどこが良いのだろう。

席に座りホットドッグを食べる彼女を隣に、伊近はぼうっと明るいグラウンドを見つめていた。
試合開始と共に盛り上がる会場、いつ誰がどこで先発なのかも把握していなかった伊近は、マウンドに山本が向かう姿を見て両手で顔を覆う。

安打を許し、ピンチを迎えながらも最小失点に抑えた山本は野手を迎えながらダグアウトへと戻って行く。
回が変わるその時、大型モニターに不安げな伊近と彼女の姿が映し出された。
隣に座っていた彼女は眉を上げて口角を上げて喜んだかと思えば、隣の伊近の両頬を両手で包んだ。

「なに?!」

伊近の大きな声が大歓声の中に響き、すぐに掻き消される。


「待って、」

山本は大谷から肩を叩かれて振り返る。大型モニターを指差す彼の先に視線をやれば、瞳を強く瞑り、鼻根や眉間にシワを寄せながら女性からの長いキスを受けている伊近の姿があった。
小さく呟く山本は、水分補給も忘れて画面に見入った。頬にも薄い唇にも赤い口紅がベッタリと付着し、そこで画面は切り替わってしまった。

「彼女?」

「…考えたくも無い。」

あの一瞬が相当堪えたのだろう。

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作者名: | 作成日時:2024年3月19日 21時

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