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何の変哲もない地域のちょっとしたニュースを眺めながら、陽の光が大きな窓から射し込むだだっ広いリビングを掃除していた。
築年数も若いマンションの部屋、掃除してはいるがこうも綺麗だと意味が無いように思えてしまう。

伊近(いちか)は、ため息をひとつ吐くと掃除用具を元の位置に戻して携帯画面を見たが、興味も無くクッションの上に放った。
柔らかいL字型のソファに腰を下ろし、暇な日中をどう過ごそうかと背もたれに肘を置いて考える。

まだ少し冷たい風が抜ける中、靡くレースカーテンを視界の端に入れながらいつの間にか巡る思考は夕ご飯の献立に変わっていた。



その日の夜、夕ご飯を作り終えた伊近は広いベランダに出て風に当たっていた。
少し寒いが、暖房で暖かくなったリビングと比べたら呼吸がしやすくて仕方が無い。
柵に腕を置き、頬を乗せながら早く帰って来ないかなと山本の帰りを待っていた。

数分して玄関扉が開く音がし、振り返る。
ベランダから離れ、窓を閉めるとそのまま彼の元へと足早に向かった。

「おかえり。」

春季キャンプまであと数日といった所で、彼は大谷と顔を合わせていた。

「ただいま、髪ボサボサやん。」

キャップのツバの向こうから覗かせる山本の瞳は、まるで愛おしいものを見るかのようで、腕を伸ばせば風で縺れた伊近の髪に指を通す。

「ベランダ出てたけど、結構風強くて。」

「この時間帯寒いやろ。」

そんな会話をしながら、伊近は山本のカバンや上着を持ってやり、リビングへと向かった。
山本はそんなに気を遣わなくても、と頭を抱えるが伊近が許さないようだ。

「どーする?ご飯から食べる?」

「そーしよかな。もう食べた?」

「食べてへんよ。出来るだけ由伸と一緒に食べたいし。」

「もしかして好感度あげようとしてる?」

ハンガーに上着を掛けている伊近を背に、手を洗う山本は笑いながら問い掛けた。
「バレた?」なんて、同じようにはにかみ笑顔で返事をする彼に思わず幸せに満ちた笑みを零す。

「来てくれただけで好感度はカンストしてますー。」

「あ、ほんまぁ?良かった良かった。」

胸を撫で下ろす伊近は笑顔を絶やさず、作っていた料理を火にかけて温め直した。

「キャンプ初日の昼飯だけ頼むね。」

「任せとけ。」

「んふふ、楽しみやなぁ。」

そうやって笑う彼の前に夕ご飯を置き、椅子に腰をかけると手を合わせて食事を始めた。

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作者名: | 作成日時:2024年3月19日 21時

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