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この歳の人には自身がイケメンに見えるのだろうか…なんて悩みながらもお礼を述べ、完成までぼーっと周りを眺め待っている
1人だけ体操着。変に浮いてしまうが、あの2人と一緒の時とは比べ物にならないほど視線が向けられない。
どこか安堵している水樹。嬉しい、なんて思いながら「はいどうぞ」というおばちゃんの声に振り返る。
冷えた体に染みる温かいうどん。
1人隅の席で黙々と食べていると、隣に誰かが腰を下ろした。
基本的に1つ空けられていた席、そんな場所に人が座るのなんて珍しくふと顔を上げた。
「灰原先生」
昼食を食べに来た副担任だった。
食堂にチラホラと見える先生の姿。楽しそうに生徒と話しながら昼食をとっている。
この副担任もそうなのだろう。テーブルにはカツ丼。まだ20代前半、胃も元気。
「水樹、今日は1人?」
「ああ…そうですね、弁当忘れたっぽくて」
「それは残念だな…、ほら、1つやるから元気だしなよ」
卵でとじられたカツを箸で1切れ持ち、ズイッと水樹の口元へと持ってきた。
少々体を仰け反らせ、反射的に口を閉じる。先程席に着いたばかり、それでも水樹と話している最中は2、3口食べており明らかに口がついている箸。
そんな箸でまさか食べさせようとしてくるとは。
漬物の乗った小皿にでも乗せればいいものを。
「…大丈夫です」
「いいから、美味いよ」
潔癖症なんてものじゃないが、他人の、それも先生の箸なんて誰が使いたがるのか。
断っても何度も食べさせようとしてくる副担任。眉をひそめ、目をグッと薄めると恐る恐る口を開いた
ぱあっと表情が明らかに明るくなった副担任、小さく開かれた口いっぱいに詰め込むようにカツを箸で押し込んだ。
「美味い?」
「……はい」
嫌悪感を全面から出しているのに気付いていない副担任。
何とか飲み込むと口も聞かず、うどんを全て平らげ逃げるように席から離れた。トレイを返却し、足首の痛みなんて忘れて駆け足で教室へと戻る。
隣に座って話しかけられた時はまだ、いい先生なのだと感じていたのに。1人なら食堂もいいかなと思っていたのに、そんな希望もあの教師のせいでぶち壊しだ。
「おかえり」
「何食べたん?」
「…うどん」
席に戻り、2人と会話をしながらふと視線を落とす。机には弁当箱と、包んでいたバンダナが畳まれて置いてあった。
「…え?」
「ゴミ箱、入っててん。」
「中身は全部あかんかった」
「あ…そうなんや」
そんな事、今はどうでもいい
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yu - めちゃ良かったです (2022年11月17日 18時) (レス) id: b3f4a92def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮 | 作成日時:2022年8月11日 1時