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「そうだったの…」と事情を聞いた保健医は眉を下げ、心配そうな表情を浮かべた後、水樹の学ランをハンガーにかけ扇風機から出てくる風で乾かしてあげた
上履きの底の泥も水道で洗わせて貰い、水を拭うとやっとというように上履きを履いてつま先をトントンと床で叩く。
「酷い落書きね」
「結構前のなんです。新しいの買っても一緒かなと思ったんで」
「親御さんは?知ってるの?」
「知らないと思います。転校してきてまだ2ヶ月ちょっとですよ、言えるわけないじゃないですか。」
しっかりとした口調で保健医の質問に答えていく水樹。
頬の傷に大きな絆創膏を貼る手当てをしてもらい、腹のアザを氷嚢で冷やすよう言われた。言われた通りにしながらソファに腰をかけていると、ベッドのカーテンがシャッと勢いよく開き、中から人が出てきた。
「A」
「…こ…こういち…?」
驚きのあまり掠れるような小さい声で名前を呼ぶ。心配そうな表情で、目線を合わせると濡れてしまった髪の毛を右手でゆっくりと撫でる。
左目を瞑り、黙って撫でられていると「何があったん、」と不安そうに聞いてきた光一。まだ右手は水樹の頬にある。
「渡り廊下で怪我してん、…光一は?具合悪いんちゃうの?」
「いや、俺じゃなくて剛。雨のせいで偏頭痛がさ」
「そぉなん、大丈夫なん?」
「今は大丈夫そうやで。めっちゃ寝てる」
ふふ、と小さく声を漏らすように笑う光一。「そか」と安心したように水樹も笑みを浮かべ、完全に2人の世界が出来上がってしまっている。
そんな2人を椅子に座って見守る保健医。
微笑ましいようにも見えるこの状況に、保健医はなにか違和感を感じ始めていた。そんな事、水樹は知る由もない。
昼休み終了のチャイムが保健室にも鳴り響く。
「Aは教室戻る?」
「…」
「水樹くんも少しここで安静にさせておくから、堂本くんは戻りなさい」
「ん…分かりました。じゃあ、また」
光一の問いに悩んだ水樹は保健医を黙って「どうしようか」と訴えるように見、それを察したかのように答えてくれた。
ヒラヒラと手を振る彼にいつものように手を振り返す。
「…次は誰にやられたの」
「3年に」
「1学年違うだけでも力の差凄いし痛かったでしょ、頬も瞼も少し腫れてる」
「痛かったけど、植木に放り投げられた方が衝撃ですね」
と掠れた笑い声を漏らした水樹。ゆっくりと立ち上がると、ベッドで眠っている剛の隣へと腰を下ろした。
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yu - めちゃ良かったです (2022年11月17日 18時) (レス) id: b3f4a92def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮 | 作成日時:2022年8月11日 1時