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タマスタで行われたとある試合。残念ながらこの日桝谷は調子が悪かったのか攻撃でチームに貢献出来たのは犠牲フライだけだった。
試合も3点の差を付けられて終了、頭を下げてダグアウトへと戻る桝谷に送られたのは怒号だった。

「…頭おかしくなるわ…」

裏に戻ると顔を両手で覆って小さく呟いた。
もしかしたらこの頃から精神的にも不安定だったのかもしれない。この日は栗原がおらず、それが余計怒号を浴びせられたという不安に拍車をかけたのだろう。
チームの全てが桝谷の打撃にかかっているような気がして、勝敗は全て桝谷次第だと言うような気がしてならず不安で眠れない日も続いた。

プロになったら環境も変わる、栗原とそう言って気合いを入れ直したプロ入り直前を思い返すが、何も変わっていないと桝谷は眉をひそめる。
確かにチームメイトは優しくなった。文句も言わないし、ポジション争いはあるがお互いが認めあっているようでそれは桝谷も楽しく思えていた。

「もー…」

そう呟いて壁に寄り掛かりながらしゃがみこむ。
ここで泣いたら負けだ。そんな思いを持っていたから余計自分自身を押さえ込んで毎日を過ごしていたのだ。

桝谷の前を横切るスタッフや選手は皆楽しそうだ。
蒸し暑い中、汗を拭いながら今日の試合はどうだった、相手が強かった、なんた会話をしては笑顔を浮べる。

「…桝谷さん大丈夫ですか?」

そう問いかけてくれたのは広報のスタッフだった。

「…大丈夫っす」

「顔色が…」

「暑いからだと思います、すみません気を遣わせちゃって」

そう言って桝谷は立ち上がる。好成績ばかりを残していても、そういい事ばかりじゃない。
蒸し暑い生温い風に辺りながらロッカールームで着替えを済ませると大きな荷物を持って歩く。ファンが沢山いる、色紙を前に出してサインを貰おうとしている。「桝谷く〜ん!」と先程までの怒号とは違い、女性の甲高い声が耳を劈く。

「ありがとうございます」

そうお礼を言いながら、渡される色紙にサインをして小さな紙袋のプレゼントを受け取り頭を下げる。時間も少ない。そそくさとその場を離れると寮へ向かった。

「どうやったー?今日の試合」

同じ部屋の栗原は戻ってくると机に向かう桝谷の頭をワシワシと撫でる。

「全然。犠牲フライしか打てんかった」

「打てるだけいいやん」

「…良くない…」

そう呟きながらじっと眺めていた手紙を折り畳んで机にしまう。ファンレターとは到底呼べない内容だった。

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作者名: | 作成日時:2023年6月19日 17時

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