37 ページ37
機内で隣に座る栗原は楽しそうで見ているだけでも笑いが出てきてしまう。けれど窓際に座る柳瀬も栗原以上にソワソワして窓の外を眺めて「すげぇ!すげぇ!」と小さな声で上から見る雲を指さしてはしゃいでいる。
飛行機に乗った事無いのかと思うほどのはしゃぎ様で栗原は親の様に「そうね〜、すごいね〜」と優しく相槌をうってくれていた。
十数時間の空の旅、空港に着いた頃には体が痛くて2人ともかなり疲弊している様子。
スーツケースを引いて、一旦予約したホテルへと向かう。日本で「安上がりやし2人1部屋予約したけん」と言われた時、栗原は何故そういうところはケチなのかと心の中で悪態をついていた。けれど今思えば、楽しいしいいんじゃないかと思考は180度変換されてしまっている。
対談にはまだ時間がある。
のんびりと大通りを歩きながら犬のように落ち着きのない柳瀬の右手首をずっと掴んでおり、栗原が先導してホテルへと向かった。
「すごいね、すごい、見て、見て陵矢、見て、二階建てのバス走っとる!凄いね凄い!あれが西鉄バス的な存在なんかな?!」
ホテルに入っても尚、柳瀬は落ち着きを取り戻さない。
大きな窓に張り付いて道路を眺めると目に付いたバスを指差してそんなアホな事も言ってしまうくらいには思考も溶けている。
「西鉄て…、全部福岡に例えるのやめてくださーい」
「だって、だって凄くない?!凄いやん!うわー!すげぇー!」
「もー、Aの語彙力がぁー…」
全く話が通じなくなった柳瀬を見て栗原は項垂れた。
数十分して漸く満足したのか「はぁ〜」と息を吐くとベッドに横になっている栗原を覗き込む。長旅で疲れたのだろうか。目を瞑って静かだ。ベッド際の床にしゃがみ込むと、じっと彼の整った顔を眺めた後、手を伸ばす。
親指の腹で栗原の唇をなぞり、瞼を撫でて頬に手のひらを添える。
ふっと笑みを浮かべると「陵矢と来て正解やったわ」なんて小さく呟き、彼の頭を撫でると水を買う為に部屋を出た。
バタン…と扉が閉まる音が聞こえると、栗原はゆっくりと目を開けて口元を手で覆う。恥ずかしさと嬉しさとでいっぱいいっぱいで、まるで青春をしている女子高生のような反応をしてしまう。
「あ、なぁんお前、起きとったん」
水のペットボトルを2本手にして戻ってきた柳瀬は、ベッドに座る栗原の姿を見て笑う。
彼に水を渡し、ひと口飲んだ後「そろそろ時間やし行くか!」と持って来てくれと言われていた荷物をリュックに詰めて背負った。
595人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Mexx(プロフ) - 初めて見つけて一気読みしました!!!おもしろくてあっという間!続編希望します!!🥹 (10月4日 23時) (レス) @page45 id: 553f86ba4d (このIDを非表示/違反報告)
Waaaaka03(プロフ) - 今更ですが一気読みしました!!途中ちょっと泣きそうになりながらも大谷さんともいい対談して、、、最高でした!!!! (8月20日 11時) (レス) @page45 id: 03c5b943b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮(プロフ) - ばたこさん» またもし次の作品でばたこさんに刺さるものがあれば嬉しいです!ここまでありがとうございました!🙇♂️ (6月23日 8時) (レス) id: e835b41f9a (このIDを非表示/違反報告)
ばたこ(プロフ) - え!!!!!もう終わっちゃうんですか!!!悲しいです🥺私の入院中の唯一の楽しみでした、ありがとうございました!完結おめでとうございます(_ _) (6月23日 8時) (レス) @page45 id: 2432bd82c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:宮 x他1人 | 作成日時:2023年6月11日 0時