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相原は肺がんと診断された時から日記を付けていた。
A4サイズのノートにその日の気分によって文字を綴る。基本的に1ページで終わるが、人と会った時や苦しい時はかなり長文を書く時もあった。
この日、相原は胸が痛い中試合に出場していた。
監督からは、絶対に5回には交代だからなと念を押されていた相原は素直に5回裏が終わるとダッグアウトに戻って行く。
胸が痛いながらもツーベースヒットを放ち、盗塁を阻止。万全な体調では無いものの、チームの為に、大谷の為にと頑張った。
だが、ダッグアウトでは顔を上げる事が出来ずにスポーツタオルを顔に当てて、膝に肘を立てて顔を覆う。しんどそうな相原に、水原が近付いて優しく背中をさする。
皆、それぞれ守備についている。ダッグアウトにはあまり人は居ない。
「…もう、ゆっくり療養しなよ。」
「……」
「…皆に話してさ。」
「…思うんです、どっちの選択が合ってるのか…」
皆に打ち明けて、試合には出れず、手術も出来ないくらいになってしまった癌を緩和させ続ける方か、言わずに最後のギリギリまで粘るか。
相原の心はずっと揺らいでいた。これと言ったら絶対に貫く相原だが、薬のせいか今の状況のせいか、不安定になっていて心も思考もネガティブに。
「…僕は今も、試合には出たい。出たいけど、もしグラウンドで倒れでもしたらって思うと、チームやお客さんに、迷惑がかかるって…」
「……SNSでは、Aが何かの病気じゃないかって噂もされてるんだよ。」
「…言った方が、いいんですかね…。でも、知られたくない、なんか…なんて言うか、プライドが許さない。」
顔を上げないまま、小さく震える声で話す相原を、眉を下げてじっと水原は見つめていた。
彼も彼なりに考えているんだとずっと相原の背中をさすってくれる。6回表が終わると、皆が戻ってきてグローブを置く。
大谷も戻ってくると、「大丈夫?」と水原にさすってもらっている相原の隣に腰掛けて問いかけた。
「…ん。大丈夫!暑いからかな、頭ぼーっとしちゃって。」
相原は上げることが出来なかった頭を無理矢理にでも上げて、大谷の方を見ると笑顔を作る。
彼はそんな相原の頬を撫でると「水分補給はしっかりね」と水を渡してくれた。
「……ありがとう。んもう、あんま優しくしないでよ」
少しちょけたように言うと、水を飲んでタオル片手に立ち上がる。「ごめん。トイレ」そう言うと大谷から離れて裏に入り、人気の無い廊下で歩を止めた。
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お餅(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました素敵な作品ありがとうございました (6月18日 23時) (レス) @page33 id: 8d7c7e252f (このIDを非表示/違反報告)
ツンデレ殿(プロフ) - 完結お疲れ様です。涙涙で頭が痛くなりました笑とても素敵な作品でした!!本当にお疲れ様でした!! (6月11日 21時) (レス) @page33 id: 62ded70eb4 (このIDを非表示/違反報告)
ぶどうジュース(プロフ) - 完結お疲れ様です。正直、かなり泣いてしまいました笑笑 前作も読みましたが、凄く面白かったです。素敵な作品を、ありがとうございます。 (6月11日 11時) (レス) id: cf3b69c759 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮 | 作成日時:2023年6月4日 13時