Give you love more (ページ12)

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大谷はその日、帰り際にまた雫の額に口付けをした。「早く良くなるように」という口実で、またその翌日も雫の額に口付けをした。
2泊3日はあっという間で、すぐに退院することが出来た。
打撲のせいでまだ青紫の左目を隠すように眼帯をし、傷口には長方形の幅広い絆創膏を貼っている。まだ痛々しい顔だが、少し笑うくらいなら痛みも無い。

1度退院した事を知らせる為に練習をしているであろう球場へとタクシーで向かう。片目が見えない状態で運転なんか出来るわけがない。

中から聞こえる選手の声に胸を高鳴らせながら歩を進める。選手達に会う前に監督の元へ向かった。怪我の状態を伝える為だろう。
片目が見えず、時折柱にぶつかりながら長い廊下を歩いていると、曲がり角から出てきた人物とぶつかった。

「お、翔平。退院したよ」

「あ…そっか、今日だったね。ぶつかってごめん、痛くなかった？」

「全然。右側だったし」

大谷はそう言いながら優しく雫の頬を撫でる。誰から見てもやはり痛々しい雫の顔、いつその眼帯は外れるのだろうかと言う事しか頭に無かった。早く雫の丸くて大きくて可愛らしい両目で、いつものように見上げて欲しいと何度も思う。

そんな時、水原と監督が先程の曲がり角から顔を出して、雫を見た瞬間監督が「"A〜！"」と名前を呼んだ。それが何故かおかしくて、雫はつい顔を綻ばせてしまう。軽い雑談をした後、治癒までにどれ位かかるのか、顔以外に痛む所は無いか等の質問に全て答えて漸く解放された。

「有給だね」

「はー、早く野球したい」

「マウンドに立つの、怖くないの？」

「怖くないよ。いつか当たるとは思ってたし、次は絶対避るよ」

「次なんて言わないでよ…」と困った様に笑いながら、大谷は優しく雫の頭を撫でた。グラウンドへ行くと、チームメイトは雫の怪我を心配し、退院してきた事を祝い、頭に手を伸ばして撫で回す。まるで人気者の犬のような扱いだ。
そんな雫の姿を大谷は微笑ましそうに、そしてどこか妬いた様に眺めている。僕はもっと、沢山愛を与えられるんだけれど、なんて黒い感情を募らせる。

小さな雫をもっと知りたいと。怪我したAの支えになりたいと。

「なにそんな怖い顔してるの」

「…いや、Aの事何も知らないなと思って」

水原に問われる大谷は、口元に手を当てて少し考えたように呟いた。
今じっくり考えると、雫の家族構成も何も知らない。ホークスの話以外、雫の口から出る事が無かったのだ。