1 ページ1
バットが空を斬り、彼の腕は力強いガッツポーズを作っていた。
試合終了、戻ってきた彼に1番に駆けて行ったのは背の高い1人の男。
「A!かっこよかった、ちっちゃいのに」
「…めちゃくちゃいい気分やったのにその一言で全部台無しよ」
「んはは!でもかっこよかったのは本当。ちっちゃいのも本当」
「人の気持ちなんも考えれんのやろな」
165cmと小さな雫は、隣で楽しそうに笑う大谷の背中を手のひらで軽く叩いてはめていたグローブを取った。
マウンド上でのピリついた空気から一転、2人の世界が完成し、周りのチームメイトも何を話しているかは分からないにしろ微笑ましそうに眺めている。
インタビューも終わり、球場を後にすると雫は駐車場に停めていた車に乗り込んだ。
そして、右側の助手席も沈み込み、扉の閉まる音がする。
「遠慮なく乗ってくるね」
「行きも乗せてくれたから帰りもね」
「図々しいって言うんだよ」
「人間、図々しいくらいが丁度いいんだよ」
大谷は荷物を後部座席に置くとシートベルトを締めて運転席に座る雫の方を向いた。
肘置きに肘を乗せ、手のひらに顎を置き、小さくため息をつく雫の整った横顔をまじまじと眺めた後、空いていた右手を伸ばし、指の背で雫の柔らかい頬を撫でた。
「Give you love more」
「結構あげてるつもりだよ」
鍵を挿して回すと、ギアを入れて車を発進させる。免許取得から無事故無違反、運転には自信がある雫だが隣に大谷を乗せてるとなると表には出さないが内心緊張しかしていない。
助手席に乗る大谷は一切前を向きもせず、雫の瞬きする度に揺れるまつ毛や通った鼻、少しアヒル口な薄い唇などをじっと見つめている。
「例えばどういう時にくれてる?」
「え?えー…こうやって送迎する時とか……」
「…ふふ、真剣に考えなくていいよ。茶化したかっただけ」
「翔平がただの一般人やったらここで叩き降ろしとったからな。」
そう話している内に大谷の自宅までやってきた。
今日も無事故無違反。ホッと一安心すると、車を停止させて助手席の大谷に目をやった。降りようとも、後部座席の荷物を取ろうともしない大谷と、彼のシートベルトを勝手に外し、「着いたよ、はよ帰って寝りぃよ」と無理やり降ろそうとする雫の攻防戦が始まった。
566人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しーちゃん(プロフ) - ギータとの絡みが楽しみです^^♡ (6月2日 8時) (レス) @page22 id: 24a005106f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:宮 | 作成日時:2023年5月29日 19時