#エレベーター. ページ37
賑わって来た店内、そんな中カララッと引き戸が開き男が顔を覗かせる
女子大生と楽しそうに話す瀬波を見つけると店内に入り、「やっと見つけた」と肩に手を置いた。
聞き慣れた声、女子大生の顔は驚きで口をあんぐりさせ、動きが止まっていた。
「…れ、ん」
恐る恐る顔を上げ、自身の左隣を確認する。
眉間に皺を寄せた永瀬の姿がそこにいた。逃がさない、と言うように瀬波の腕を掴んでおりこれ以上長居も出来ない状態だった為、財布を出してお金を支払う。
「じゃあ帰るで」
腕を引いて瀬波と外に出る永瀬。居酒屋の店長も女子大生も、嵐が過ぎ去ったような何が起きたか分からない様子で出ていく2人を目で追った。
外に出ると少しの沈黙が流れる。蒸し暑い夜、クーラーの効いていた居酒屋が恋しい。
「廉。」
そう名前を呼んでも彼は返事をしてくれない。
視線すら合わせてくれない彼に何言っても無駄だと腕を引かれながらただついて行く。
赤信号の横断歩道、足を止めて隣に並んだ。
「…死にそうな顔してるAも嫌やし、俺らの知らへん所で楽しそうにしてるAも嫌やねん」
「…」
「それも女と。バイトしてた時の知り合いかもしれへんけど、それでも嫌やねんて。ほんまに。」
「普段"ダルいって〜"ばっかやのに、こういう時は一目散に行動すんねや」
なんて、彼の横顔をじっと眺めながら瀬波は目を半月目にし、幼く笑う。
優越感に浸っている訳じゃない。ただ普段の彼とのギャップで少し面白くて。
外ではどこで誰に撮られるか分からない。
腕を掴んだまま、青信号に変わると足早に自宅へと戻りエレベーターが開くとそのまま乗り込み階数ボタンを押した。
ゆっくりと上昇し始めるエレベーター。
まだ掴まれたままの腕に目をやり、
「そろそろこの腕離し
"離してくれへんかな?"と永瀬に視線を戻しながら言おうとした時だった。
目の前には永瀬の顔。唇に柔らかいものが触れ、数秒間そのままだった。
チン、と扉の開く音がしたと同時にゆっくりと離れ、彼はすぐ"閉"ボタンを押して扉が閉まるのを待たずにもう1度瀬波へとキスをした。
「行き先階のボタンを押してください」なんて、感情の無い無機質な音声がエレベーター内に響く。
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宮(プロフ) - 名無し43069号さん» わー!!ありがとうございます!励みになりますー!!!! (2022年12月9日 13時) (レス) id: eaadcb025a (このIDを非表示/違反報告)
名無し43069号(プロフ) - 超絶めちゃくちゃこのお話好きです!!!!!!!!!!!!!!! (2022年12月9日 13時) (レス) @page40 id: 1a12019006 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:宮 | 作成日時:2022年12月2日 13時