【堂本光一】ブレザー【男主】 (ページ35)

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#35. ページ35

「今日は一緒帰れへんわ」

Aの少し寂しげな声が教室のざわめきに消える。1週間後、2人の間は先日より距離があった
帰れない、と光一の誘いを断ると彼は「そか、」と苦笑いを浮かべた。その会話を聞いていた周りの生徒が光一に駆け寄ってくる。

「光一くん一緒帰ろぉや」

「あぁ、ええよ」

そんな会話の中をすり抜け、Aは鞄を持って教室を出ていってしまった。
クスクスと笑う声、教室後方いじめっ子は3人固まって嫌な笑みを浮かべると追いかけるように教室を出る。不安に思いながらも光一達もその少し後に下駄箱へと向かった。

Aの表情が晴れることは無く、暗く曇ったまま。
「ドーン！！」と言う幼稚な言葉と共に背中を蹴られて前方によろけ、何とか体制を整えた。
場所はあの河川敷、野球少年が草野球をしていた。

橋の上、柵の低いこの場所で取っ組み合いの喧嘩をし始めた。

「まだ文句あんのかい…！」

「ツラが気に入らへんねん！見てるだけでムカムカするわ！」

光一と距離を置いたのは自身の身を守る為、光一にあまり迷惑をかけない為。
決して嫌いになった訳では無い、少し不信感は持っていたがそれでも突き放す程では無かった。

追い詰められ、踵にコツンと石で出来た柵が当たり驚いたように振り返る。
こんな所でこんな喧嘩ダメだと察知したAだが、いじめっ子はそんなのどうでもいいようでどんどん詰め寄ってはAの胸ぐらを掴み押し込んでいく。

たった1週間で寒さは増して、マフラーが必須の季節になっていた。
雲ひとつ無い気持ちのいい晴れた日。鼻先は赤く、吐く息は白く宙に消える。
あーだこーだとクラスメイトと会話をする彼は、目の前の光景に足を止めた。

後ろに仰け反らないよう低い柵に掛けていた足、力で負けてしまいバランスを崩し、そのまま数十メートル先に頭から真っ逆さま。
バチッと落ちる瞬間のAと目が合った、きゅぅッ…と小さくなった黒い瞳、光一を視界に入れた後すぐに目を閉じ鈍い音が周囲に響いた。

下は石畳、落ちた瞬間時間が止まったような、重い空気にその場全体が包まれる。
「嘘やろ…」と小さく呟く光一の両隣に立っていたクラスメイト。逃げるように踵を返し別の道で走って帰っていった。橋の上にいたいじめっ子もそう、「ひっ」と下を覗き込み小さい悲鳴を漏らして帰って行った。

感情が追いつかない彼は目を逸らし、いつもの様に見て見ぬふりをした。