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窓から差し込む日差し。暖かく、過ごしやすい気候になったせいかベッドから一向に出る様子が無い男。
「A!!早く起きな遅刻するって!!」
「…ん〜、」
勢いよく部屋の扉が開かれ、耳を劈くような大きな声が響く。
Aと呼ばれた男は眉を顰めると足を上に伸ばし、下に振り下ろした反動で体を起こした。
眠い目を擦り、ベッドから降りると掛け布団を軽く整えた後に母親の方へ顔を向ける。
「朝ご飯何?」
「食パン。目玉焼き乗せてあるから、着替えたら降りてきてよ」
「…はぁい」
眠たげな声色で返事をすると、母親は部屋を後にし静かな空間が戻って来る。
部屋着を脱ぎ捨てるとハンガーにかけてあった制服を手に取り、袖を通す。着慣れた白いブレザー。赤いネクタイがよく映える。
階段を下りると、鞄をソファに投げ置き洗面所に顔を洗いに向かった。
タオルで顔を拭き、歯も磨いた後に髪にクシを通して整える。
頬辺りまで伸びた前髪はセンターで立ち上がっており、項の見える後ろ髪。ストンと降りた綺麗な黒髪は顔を動かす度にふわりと揺れる。
「ご飯は!!」
「たぁべーるぅ!」
「早く食べなあかんよ!」
リビングから聞こえてくる母親の怒鳴り声。
少し面倒くさそうに返事をした後、洗面所を出てリビングに戻る。
椅子に座り、手を合わせると制服を汚さないようしながら急いでパンを食べ進めるが、1分もしないうちにチャイムがピンポーン…と部屋に響いた。
母親が玄関に向かう前に、食パンの上に乗った目玉焼きを先に食べた後食パンを片手に鞄を持ち、母親を追い抜き靴を履いた。
「いっ…ッてきます」
必ずその言葉だけは母親にかけ、体で扉を押して外に出た。
目の前に立っていたのは同級生でクラスメイトの男子生徒。
「あ、食べてる途中やん。早く来すぎた?」
「大丈夫、寝すぎただけやから」
「はは、あったかいしなぁ」
Aの左側で目を細め口角を上げて笑う彼も、同じ様に頬辺りまで伸びた前髪。ただ少し茶色混じりで襟足がAよりも長い。
「…光一?」
「っあ、え?」
「めっちゃ見てくるやん、なんかあった?」
光一、と呼ばれた男。食パンを頬張っていたAを無意識にじっと眺めていたのか、指摘されると少し驚いた様子で我に返る。
首を小さく横に振り、「なんでも、」と返事をすると顔を前方に戻した。
河川敷の土手と土手を繋ぐ橋を渡り、ずっと真っ直ぐ歩いていく。
学校まではあと少しだ。
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作者名:宮 | 作成日時:2022年10月13日 20時