寮母さん(仮) (ページ11)

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笑顔の奥の努力を知らないページ11

あの日から数日

誠也くんはスタッフさんと折り合いをつけて全国ツアーに向けて話し合いを繰り返し、今までで良いものが出来上がりそうと福本くんが教えてくれた。

仕事から帰ってもリビングで、その日の反省会やファンの人に向けての企画などを考えている様子を見るとこちらも嬉しくなった。

どんなに夜遅く終わって翌日早くても疲れを見せないそんな姿にプロってすごいなって思う反面、ここでくらいは気を抜いて素で居られる場所を提供してあげたい、と思った。

福「あー。今日も疲れた。」

福本くんは最近は個人のクイズ番組のお仕事で優勝が掛かっているとかで毎晩遅くまで勉強をしている。そんな彼に夜中の夜食を作るのが日課になりつつあった。

最初こそ遠慮していたけど、2日も経てば待ってましたとばかりに満面の笑みで受け取ってくれるようになった。きっとファンの人はこの笑顔が好きなんだなぁ、なんて思いながらおにぎりと味噌汁を渡す。

「大変だろうけど、無理せず頑張ってね。」

福「毎日こんな時間にありがとう。感謝してる。」

そう言いながら少し照れくさそうに夜食を受け取り、部屋の扉を閉めた。

自分がやりたくてしていることでも、「ありがとう」を言われるとやっぱり嬉しくて胸の辺りが温かくなる。そう言うのって日々生活してたら忘れがちになるけど、当たり前じゃないんだなって思う。

アイドルと言う仕事はたくさんの人の目に触れて、求められれば笑顔を作らないといけない。そんな彼らが少しでも穏やかに過ごせたらいいな、なんて思わずにはいられないのだ。

と、言うのも私が寮母になる前より以前から女の子たちが家の周りに集まったり写真を撮られたり、そういう問題が少なからずあったらしい。それでも大事にならなかったのは中年夫婦だったからだろう。

彼らを思えばここより安全な場所で過ごした方がいいんじゃないかと思う時もあったけど、ここで過ごしたいと言ってくれた気持ちが素直に嬉しかったし、…まだ彼らとそばに居たいと感じて自分から言い出せなかった。

日を追うごとに多忙になる彼らはとても眩しくて、私には太陽の様な存在になっていた。

福「…いつも俺らのこと考えてご飯とか掃除とかありがとうう。」

親身になってこんな風に支えてくれる人が居るって当たり前じゃないって思ったという彼は仕事で何かあったのかも知れないけど、本人が言わないなら無理にこじ開けるのは違う気がして笑顔で誤魔化した。