5 【北山side】 ページ5
「今何時…?…わぁっ!?…え、ちょ…」
藤「ん?」
時計を見ようと目線を上げたら、めっちゃ近くに藤ヶ谷の顔があった。
「びっくりした…」
藤「…今更?」
…伝わってねぇなこれ。無意識かよ。
「…近い。」
藤「え、あぁ…ごめん。」
本当に申し訳なく思っているのかは不明だが、俺に覆いかぶさってくるようにして覗き込んできていた藤ヶ谷は、隣のシートに腰を下ろした。
藤「…改めて、おはよ。」
「お、おはよう…」
藤「…」
「…?」
俺のことをじーっと見つめてくる藤ヶ谷。
黒みがかった瞳は、朝日の明かりを受けて柔らかく輝いているように見える。
藤「…頭。」
「…ふぇ?」
頭…がどうした?
藤「貸して。」
「ん…」
突然藤ヶ谷は俺の頭に手をのばし、優しく撫でてきた。
「…なんで?」
藤「…寝癖。」
「…あ、」
昨日は遅くまで練習していたせいでお風呂のあと乾かさずに寝てしまった。
そのせいで、濡れたまま寝た髪は俺の腕に擦られてクシャクシャになっていた。
「ありがと…」
藤「あと、ここ。」
そう言って、俺の顎をなぞるように指を滑らせる藤ヶ谷。
「んん…?」
藤「よだれ、垂れてた。」
「…?!」
ってことは…こいつの指に俺のよだれが?!
「手、どーすんの?!」
藤「…え、どうするって?」
…まじで無意識なのか?
「いや、汚いかなって…」
藤「え…別に、?」
「…そ、っか。」
藤「…ん」
そうして俺たちは、しばらくふたりきりの車内をなんとか言葉を紡いでやり過ごしていた。
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作者名:桜桃 | 作成日時:2022年9月24日 19時