名前は付けない / JN

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顎をしっかり上下させて噛み締めるように食べているその表情は幸せそうに見え、今この瞬間だけでも、嬉しく感じてくれたらいいな。と、思った。

その後も食べながら、メンバーがアイスを買い食いしてる所を事務所スタッフにバレそうになって、手にしてたそれをポケットに突っ込んだ話等、たくさんの失敗話を身振り手振り動きをつけて聞かせてくれた。
その姿は、これまでの“寡黙で弟達を優しく見守るお兄さん”の印象からがらりと変わって、私はお腹を抱えて笑い続けた。

「最高に美味しかったです！」
『そんな大した物じゃないですからお気になさらず』

昨日の夕飯の残り物＋αに、深々と頭を下げられてはこちらが恐縮してしまう。

「今まで食べたおでんの中で一番です。本当、お店出せますよ」

親指を立てて縦に何度も振る。

口が上手いなぁ。
手作りの方を褒めてくれて。

分かっていても気を良くした私は、明るくしゃべる雰囲気につられて同じトーンになる。

『練り物はお気に入りのお店があってそこで買った物ですけど、出汁には拘りがあるんですっ』

男子大学生が関心ある訳もないのに、調子に乗って削り節の配合の割合なんかを話してしまっても、
「なるほどー」、「だからかぁ」と、熱心に聞いてくれた。

すっかり時間を忘れて話してしまったけど、そろそろ鍵を閉めて帰らないと。
時間を確認する為スマホの画面を開く私を見て、ソクジンさんも察知したんだろう。
スープジャーをランチバッグに片付け始める。

「何かお返しさせて下さい。命の恩人にっ」

『ふふっ、そんなお弁当ひとつで大袈裟な』

「貰ったままじゃ僕の気がすみませんから。何でも言って下さい」

本当に律儀な人なのだろう。
真剣な目を向けられ、このまま否定するだけじゃ引かなそうなソクジンさんに折れ、“んー…”と考えを巡らせる。


『じゃぁ…、無理し過ぎないって約束してください。もう、こんな風に倒れたりしないようにっ』


彼に人差し指を向けると、驚いたように目を丸くした。

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