お膳立て ページ30
グレンside
確信を持ってこぼした言葉に、斉藤はこちらを見上げたまま言う。
「あれ、思っていたよりも随分と冷静ですね」
「何故俺が取り乱す？」
「だって、真昼さんはあなたの恋人でしょう？」
“恋人”
斉藤の中で俺はどれだけ間抜けな男に見られているのだろう。それに笑いながら斉藤に言い返す。
「もう十年も会っていない女を、恋人と呼ぶほど俺は間抜けじゃない」
「あはは、そうですか」
「そうだ」
「でも、未練はある」
「ねぇよ」
どうしてもこの話を続けたいのか、斉藤はそれでも俺の主張を否定してくる。
「いえいえ、ありますよ。あなたの力は──その若さではあり得ない程のその、呪術の力は、真昼さんを柊から取り戻すために……」
「ねぇって言ってんだろ」
しつこいその問答に、俺はさらに刀を斉藤の肩に押し込む。
「はは、そうですか。まあ、別にどうでもいいですけどね。しかし真昼さんの方はまだ、あなたの事が好きですよ？」
その言葉に黙り込む。
「あなたの元に行くためだけに、彼女は力をつけ、家族を売った。なんて健気なんでしょうねぇ。あなたに会いたい一心で、この十年、必死に努力し続けてきた」
「……」
「それをそろそろ、受け入れてもいい頃なんじゃないですか？ 真昼さんはきっと、あなたに抱きしめてもらいたがってますよ」
斉藤の言葉に、少し前のことを思い出した。
選抜術式試験が始まる前──深夜の攻撃を受け切れなかった時の、こと。
医務室で再会した、真昼のことを。
会えて嬉しそうな顔。
力がない俺を見て──この十年、想い続けていたのは自分だけだったのかという、落胆の顔。
それでも俺に綺麗と褒められて、喜ぶ美しい顔。
「で、そのお膳立てを《百夜教》がしてくれるってわけか？」
そう聞くと、斉藤はにっこりと笑って頷く。
「ええ、そういう事です。あなた方二人ほどの実力があれば、とても良い待遇で迎えられますよ。もちろん、他の柊と一瀬の方々には我らの軍門に降ってもらいますが」
「……」
「でも、一緒に柊潰しをしていただけるのであれば、あなたと真昼さんはその後、柊の残党共を束ねる王と女王になってもらってもいい。うちは家柄がどうだの、格がどうだの言いませんし。お好きに恋愛でも何でもしてください」
そこで斉藤は言葉を切る。
斉藤の顔を見下ろすと、彼はやはりにこにこと笑っている。
胸を刀で切り裂かれ、体の半分を生贄に変質させられながらも、余裕の笑みで。
続く
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ラピスラズリ(プロフ) - 空白さん» 返信遅くなってごめんなさい!面白いだなんてありがとうございます!これからも、更新頑張ります。 (2022年2月10日 1時) (
レス) id: f58e338eee (このIDを非表示/違反報告)
ラピスラズリ(プロフ) - 凪さん» 返信遅くなってごめんなさい!大好きと言っていただけるなんて光栄です!ありがとうございます。 (2022年2月10日 1時) (レス) id: f58e338eee (このIDを非表示/違反報告)
ラピスラズリ(プロフ) - さくら＆りな(б∀б)さん» 返信遅くなってごめんなさい!やっと、続編まで来れました。更新が遅くなる事もあるかと思いますが、どうぞ見守って下さると嬉しいです。これからも頑張ります！ (2022年2月10日 1時) (レス) id: f58e338eee (このIDを非表示/違反報告)
空白 - メチャクチャ面白いです (2022年1月29日 0時) (レス) @page5 id: e38918ab99 (このIDを非表示/違反報告)
凪 - やっぱりこの作品大好きです。これからも読み続けますね。 (2022年1月8日 18時) (レス) @page1 id: ae77e7925b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ラピスラズリ | 作成日時：2022年1月7日 16時
