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江口 side
楽屋で台本をチェックしていると後ろから誰かに抱きつかれた。またスキンシップが多い女性スタッフかと思い、鏡越しにやめてくださいと言おうとすると、そこには大好きな彼女の姿があった。
髪は少し伸びていて元気そうだった。相変わらず化粧はしていなくてAらしいな、と思った。
｢そうそう、この間も天月さんに助けられちゃった！｣
Aがレコーディングに向かったので何となく楽屋から出ると女性スタッフが2人でこんなことを話していた。
｢天月さんのこと最初苦手だったんだよね…｣
｢あー分かる！でも話してみて一瞬で好きになったわ｣
｢私も！天月さんの方が身長低くて小柄なのに重い荷物持ってくれたりとか…｣
｢私は転びそうなところを支えてもらって…キュンってしちゃった｣
Aはみんなから愛されているんだな、と話を聞いていて自分のことのように嬉しくなった。だけど嬉しいという感情はすぐに消えた。
｢でも…喉大丈夫なのかな｣
｢声のお仕事をしててまだまだこれから頑張るぞって時期に…辛いよね｣
最初はなんの話しをしているのか分からなかった。でも今日の彼女を思い出してすぐに納得してしまった。少し声が掠れていたし心做しか声量がいつもよりなかった気がする。
｢治るといいね…｣
｢うん…天月さんがいるといないじゃ大違いだから…｣
ポケットにあったスマホを取り出してすぐに検索サイトを開いた。そして 声 掠れる 症状 と調べると1番上に“発声障害”と出てきた。まさかAが…いやだっていつも通りだったし…
もしかして、と最悪のことが思い浮かんでしまった。
声優の仕事から離れたのは発声障害だとわかったからじゃないだろうか。スマホを見て動けずにいると後ろから抱きつかれた。
天月｢あぁー…疲れた｣
江口｢A、お疲れ様｣
天月｢ありがと｣
んんっ、と咳払いをしているのを見るとやはり発声障害なのでは、と思ってしまう。
天月｢拓也？｣
江口｢あ、ん？どうした？｣
天月｢ううん。何か暗そうだったから｣
江口｢暗くないよー！大丈夫！｣
天月｢そ？ならいいけど｣
そう言いながら俺の手を優しく握る彼女は本当に発声障害なのだろうか。1人で悩んでいないだろうか。そんな事が頭の中をぐるぐるとまわった。
天月｢あのね、最近LiSAさんと仲良いんだ｣
相変わらず表情は出さなかったが、嬉しそうに話す彼女を見てどこか安心してしまった。
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作者名：空白 | 作成日時：2021年4月6日 21時
