11話 ページ12
「……………え？」
思わず私も目を見開いてしまった。
ボスが私にツカツカと靴を鳴らし近寄ってきた。
「お嬢さん、君はこちら側の人間だね？」
「…は、はい」
「うん。君を購入するけど、生憎ウチには要らないことになったんだ。悪いね。だが、選択肢ができたんだよ。」
「…そう、ですか」
ボスは、トップの殺し屋であり、獰猛な殺し屋たちを束ねている。流石というべきか、会話の仕草の中にうまく指文字を組み込んで私にこう伝えた。
「内部スパイになれ。今後梵天の動向を監視できたらかなり有利に進む仕事が出てくるだろうから」
と。
「佐野くん、この子を梵天に所属させるのは問題ないかな？」
「…見張りをつけますが。」
「そうかそうか。…だそうだが。今殺されるか梵天に所属して働くか。…どっちがいい？」
ボスは真っ直ぐに私の目を見た。拒否権は無い事を思い知る。
「梵天で、働きます」
目を逸らさずそう言い放つ。
…ボスはズルい人だ。最後の最後まで私を利用しきってから処分するんだろうな。
もう、どうだっていいや。
そもそも、何で私は人殺しを仕事にしているんだろう。あの日、6歳のときに攫われてボスに売られてから私の運命はきっと狂ったんだ。
怒りが湧いてくる事もなく、只々虚無感に襲われた。
みるみるうちに手続きが進んでいった。
私は道具の様に扱われる運命なのだろうか。
私が人間として扱われた時間は6歳で止まっている。
こんな時に親の顔が思い浮かんだ。
私は顔が父親似で声は母親に似ている。
父は警察官で母は歌手だった。
父は背が高く、母はそこまで背が高くなかった。
父は気性が荒かったらしいが、母のお陰で丸くなったそうだ。
そして、母がいつも言っていた事を思い出す。
「Aは沢山間違うんだから、人の間違いも許してあげないとダメよ。あと、優しく人の間違いを教えてあげられたら花丸ね。」
ああ。お母さん、私沢山間違えて来たよ。取り返しがつかないくらい人を殺して。ごめんなさい。
ごめんなさい。
6年間注いでくれた愛をドブに捨てるような真似をして。
でも、きっとこの先私はまた人を殺して生きていく。血で濡れた手を、体をこれからもずっと見て生きていく。
ボスがいつの間にか帰っていた。
これから梵天の人達に殺されてしまいそうな心配を抱えつつ、拘束を解いてもらった。
肩を自力ではめて、首を鳴らした。
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作者名：ゆも | 作成日時：2022年3月26日 0時
