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【 志摩 side 】
報告書を書き終えて分駐所を出た頃には、雨は土砂降りだった。
車で来ていなかったら分駐所に泊まってただろうな、と思うほどに。
丁度帰る時間に土砂降りだなんて、最悪だ。
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車を走らせて数分。
信号が赤に変わり、車が止まった時……
ふと少し先のカフェに女性が立ちすくんでいるのが目に入った。
その人物にはとても見覚えがあって。
土砂降りの雨と睨めっこしてるから、思わず笑ってしまった。
大方、傘がなくて帰れないとかだろう。
天気予報でも言ってなかったもんな。
そして信号が青になって、少し進んでカフェの前で車を止めた。
………あぁ、やっぱり。
「一ノ瀬…?」
「…えっ、あ、志摩さん!」
突然声をかけられたことに驚いたのか、彼女は目をパチパチとさせる。
「乗れよ」
「え?」
「送ってく、この雨で帰れないんだろ」
「い、良いんですか…!?」
俺が送ってく、と言った瞬間に一ノ瀬の目が輝く。
なんか…犬みたいだと思った。
伊吹とはまた違うタイプの、犬。
「濡れるだろ、ほら早く乗れ」
「ありがとうございます…」
鞄で頭を庇い、意を決して屋根の下から飛び出した一ノ瀬が後部座席のドアを開ける。
そして律儀にお邪魔します、と言いながら座った。
「志摩さんが通りかかってくれて助かりました。
よくわかりましたね」
「まぁ…なんか見覚えあるやつが雨と睨めっこしてんなーと思って見てたら…な」
バックミラーの端に映った一ノ瀬は少し顔を赤くしているように見えた。
すぐに睨めっこなんてしていません、と反論してきたが、その顔じゃ説得力もない。
「家、どの辺?」
「あ、はい。
ここをずっと真っ直ぐ行って交差点を……」
一ノ瀬の説明を聞きながら、あの辺かとだいたいの場所を理解する。
「じゃ、行くぞ」
「よろしくお願いします」
ブレーキから足を離し、アクセルを踏んで車を発進させる。
相変わらず、雨が止む気配はなかった。
「雨は最悪だけど、志摩さんと会えたのでちょっとラッキーでした。
伊吹さんや皆さん、お元気ですか?」
その質問に元気過ぎてうるさいくらいだ、と返しながら……
まぁ、土砂降りな雨も悪くないか。なんて彼女に同意して少し口元が緩むのを感じた。
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作者名:セレーナ・ラフィーネ | 作成日時:2020年10月19日 18時