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【 志摩side 】
「しーま」
「……。」
「ねぇ、志摩ー」
「……。」
「志摩ってばー!」
「あーもう!何だ煩い!」
分駐で報告書を書いていれば、伊吹がしつこく声をかけてくる。
思わず振り向いたが、視界に映った伊吹はニヤニヤと笑みを浮かべている。
瞬時に悟った、これは面倒くさいやつだと。
「あのねあのね、この前偶然!夏樹ちゃんに会ったんだけど〜」
「!」
"夏樹"、その名前に思わず反応してしまう。
しまった、と思った時にはもう遅い。
伊吹は俺の様子を見てすぐにニンマリと口角を上げた。
「夏樹ちゃん超可愛いの、ちょーきゅるふわっなの!」
「あーはいはい、そーですか」
あいつは…確かに、可愛いとは思う。
だけど、それと同時に…かっこいい、とも思う。
自分の足で堂々と立ち、自分の信念を貫くその姿は、俺でも見習いたいと思うほど。
「あー、志摩ちゃーん」
「あ゛?」
「今、夏樹ちゃんのこと考えてたでしょ〜」
「……は?」
「知ってる?志摩ちゃんね、夏樹ちゃんのこと考えてる時、ちょーっと表情が柔らかくなるの」
こんな感じ!と口角を上げて見せる伊吹。
……そんなわけないだろ。
隣の伊吹を軽くあしらって、再び報告書へと目を向ける。
だけど、書くべき内容が頭に浮かばない。
浮かぶのは、伊吹の言葉だけ。
仕事中だというのに伊吹に振り回される自分に嫌気がさした。
「ねぇ、志摩」
「………。」
「夏樹ちゃんのこと、好きなの?」
「……は?」
伊吹の言葉に、ふと手が止まる。
思わず報告書から顔を上げ伊吹を見れば…いつにも増して真剣な顔をする伊吹と目があった。
「だーかーら、好きなの?って」
「…そんなわけ、」
「じゃあ、志摩にとって夏樹ちゃんって…何?」
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作者名:セレーナ・ラフィーネ | 作成日時:2020年10月19日 18時