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【 志摩side 】
「ゔー…」
あれから酒を飲みに飲んだ一ノ瀬は呻き声を上げながら机に突っ伏している。
いくら酒に強い一ノ瀬でもあれだけ飲めばそりゃ酔うわ。
「おい一ノ瀬、大丈夫か?」
「ゔ…大丈夫、です」
「大丈夫じゃないのはよくわかった」
思わずため息をついて彼女のコップに水を入れる。
飲むよう促しても起き上がる気配がないのでしばらくそのままにしておくことにした。
……ここまで飲むのには何か理由があるのか。
仕事で嫌なことでもあったのか。
聞きたかったことはいろいろあったはずなのに、結局一つも聞くことができなかった。
.
「志摩…さ、」
「ん?」
しばらくして…ふと俺を見上げる一ノ瀬と目が合う。
眠いのか、少し虚な目をしていた。
「志摩さん、生きてますよね…」
「何だよ突然」
「……あの日から、たまに夢を見るんです。
クルーズ船で見たのと同じ…志摩さんと伊吹さんが血を流して死んでる夢」
………一ノ瀬が見た夢。
あの日、クルーズ船で目を覚ました一ノ瀬は「よかった…、2人とも、生きて…ッ…!」と言った。
あの時の彼女の顔を俺はきっと一生忘れられない。
まさかそんな夢を見ていてそれを未だに見ているとは……そりゃ酒も飲みたくなるか。
手を伸ばして、今にも泣きそうな顔をしている一ノ瀬の頭を撫でる。
すると、志摩さんの手はやっぱりあったかいですね。
そう言って彼女はゆっくりと目を閉じる。
「抱え込むなよ」
またしばらくして、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。
気持ちよさそうに寝るものだから起こすのが憚られて…しばらくそっとしておこうと、グラスに残っていた酒を口に運んだ。
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作者名:セレーナ・ラフィーネ | 作成日時:2020年10月19日 18時