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『麗子の写真がみたいなんてどうして?』
『いやー、
麗子さん優しかったなー…』
私は蒲郡さんの家近くの塀に寄りかかりながら、志摩さんは隣でしゃがみながら、インカムから聞こえてくる会話に耳を澄ませていた。
“刑事として”
“蒲郡さんに救われた一人の人間として”
伊吹さんがどんな気持ちでいるかはわからないけど、蒲郡さんに話を聞くことを引き受けてくれた。
今の話の内容は無線でつないで私たち404以外に捜査一課と所轄も聞いている。
もう、蒲郡さんがホンボシだと確信づいているから。
『よく言ってた。キリスト教の教えは赦しなんだって。
イタリアでは窃盗犯はすぐに釈放される。
“彼らは生活に困ってやむなく盗みを働いた、初めから罪深い人間なんていない”
俺はもともと仏教徒だし信者でもないからよくわからない。だけど、長年付き添ったらちっとは影響される。
俺たちは犯人を逮捕することで悪しき行いを止める。逮捕された者は服役することで罪を償う。それは許しを与えるということだ。
…俺はそうやって刑事をやって来た。』
蒲郡さんの穏やかで優しい声。この話を聞くだけなら刑事の鑑だと思う。
紙のカサカサという音が聞こえた。伊吹さんが本題を持ち掛けているのだろう。
『麗子さん病気じゃなくて事故にあったんだね。
事故のことも犯人のことも忘れた。そうだよね?
ガマさんは事故で怪我して全部忘れちゃったんだよね?』
今の言葉には伊吹さんの願望が含まれているだろう。そうであってほしい、認めてほしくない。
答えることができないのか沈黙が訪れる。
『…退官して家内とゆっくり暮らそうと病院に近いこの家を買った。子供はできなかったし、あいつには随分寂しい思いをさせた。だからこれからは………
3年足らずだったが、いい時間だった。』
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月18日 17時