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伏せて机に頭をぐりぐり押し付ける。
昨夜からぶっ通しで調べているというのに全く眠くはない。
「いつまでそうしてんだよ、無い細胞が減るぞ」
隣の席から聞こえる憎まれ口にも言い返す気力がない。
「…何もかける言葉が見つかりませんでした」
「……」
「伊吹さん、蒲郡さんに話聞いてくれますかね」
「…聞かないなら俺らが行くしかない。
でも、アイツも刑事だ」
伊吹さんの家から私たちはまた分駐所に戻ってきた。
普段なら休みの日になんでこんな働いてるんだよ、とか思うけどそれどころじゃなかった。
…ずっと、胸が痛い。
ぐりぐりする動きを止めて、目に入った資料をペラペラめくる。
仮説が外れてくれればいいな、と刑事らしからぬ考えをしていたのも束の間、見事に的中してしまった。峯岸から話を聞いて、捜一の刈谷さん達にも協力してもらって、全てが繋がってしまった。
でも、私だって志摩さんだって、他の人たちだって蒲郡さんが捜査線上に浮上するとは思わなかったんだ。あー胸が痛い、あと押し付けていた額が時間差で痛んでくる。
私は資料から手を放すと、今度は額を押さえた。
「志摩さんの過去を調べたとき、伊吹さんにカタツムリって言われたんです」
「…猫の次はカタツムリか」
「志摩さんの過去についても、最期まで刑事を全うした香坂さんのことも、全部調べたのは伊吹さんで、私は何もしていないでただ見ていただけだから…
いい所だけ殻から出る、弱いカタツムリです」
今回はカタツムリ卒業しようって意気込んだけど実際調べてしまったら苦しくて苦しくて仕方がない。
「お前はどちらかといえば普通のやつだよ。あの図々しさは誰にも真似できない。」
「そうかもしれないですけど、
伊吹さんの言う通り、私は弱い。」
「…お前ってつくづく面倒な奴だな」
志摩さんから繰り出された言葉の暴力。
でも反論はしない。ないもん、言い返す言葉。
「最近は心を入れ替えたのか何なのか…ふらっと居なくなることが無くなったと思えば今度は他人のことでグズグズ悩み出して」
「わかります本当に面倒な奴ですよね志摩さんの先が思いやられる」
「自覚あんのかよ。でも、
お前もいいやつだよ」
思いがけない言葉に思わず隣を見上げたが、視界がぼやけたためまた俯いた。
「…泣くなよ」
「いやー、おでこが痛くて痛くて…」
「あっそ」
すっごいぶっきらぼう。
でも茶化さずに背中を擦る手は温かい気がした。
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月18日 17時