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ふと目が覚めてしまい、水を飲もうと仮眠室を出てキッチンに向かう。
案の定、俺の目はカウンター席に見慣れた後姿を捉えた。


「今日も起きてたのかよ、それでよく頭回んな」

「…お褒めに預かり光栄です」


褒めたつもりは毛頭ない。
遠回しに寝ろって言ってるのがこいつは分かってるのだろうか。


隊長に言われてAに目を光らせるようになったが、変わりはないように見える。
こいつもこいつで羽野麦の名前を出したときくらいに動揺してくれればわかるんだが。


「…なんで寝ないんだよ」

どうせまた夜行性だから、とか変な事ぬかすんだろうと思っていたら予想に反してAは


「夜って、いろいろ考えちゃいません?」

だから眠れないんです


と、力なく笑った。
彼女が考えてしまうことと言ったら一つしかない。


「羽野麦のことか」

「…今日組対の人に聞きに行ったんです。
 エトリの情報とか辰井組に繋がるものは見つかったのか」


頬杖をつきながら彼女は窓の外を見つめた。
その瞳には今にもこぼれそうなほど涙が溜まっている。


「また行ったのかよ。」

「あ、前にも行ってたの知ってたんですか」


悪びれる様子はなく他人事のようにまた力なく笑った。


「隊長に注意されたんですけどね……
 あの人たち、エトリを探す気はないんですよ。なのにクレームっていう仕事は凄い早い。」


Aが両手で顔を覆う。


「エトリなんて存在するのか?って聞かれた時、何も言い返せなかった。私羽野さんのために何もしてあげられてない」


初めて聞いた彼女の弱音に

『ごめんなさい、ごめんなさい……!』

と銃で撃たれた後の病室で隊長が見た彼女はこんな感じだったのではないかと予想できた。
自責の念に駆られて、自分を追い詰めて……

さすがにその組対の刑事に言われたことが相当堪えたのだろう。だから初めて弱音を吐いてくれた。
それが不謹慎ながらもほんの少しだけ安心を覚えた。


「…すみません、こんな話」


シャツの袖でごしごし目を擦る彼女に俺はどう声を掛けたらいいかはわからなかった。でも、彼女にとって少しでもいいスイッチになるように

「話くらい聞いてやる。少しは頼れ」

と、柄にもなくかっこつけた言葉を発してしまった。

少しこっぱずかしい思いもしたが、彼女が何度も頷きながら「ありがとうございます」と小さく返事をしたため、偶には悪くないなと思った。






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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月18日 17時

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