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…蒲郡さんが逮捕された。私達機捜の出番はそこで終わり。
かといって今日の任務が終わったわけではない。
通常業務に戻って、明日の朝9時まで重点密行。今は少しの休憩時間。
私はまた机に顔を伏せてぐりぐり額を押し付けていた。
今日もまた、眠れない。
“許さない。
許さない。
俺は許さない。
刑事だった自分を捨てても、俺は許さない”
頭の中で何度も木霊する、蒲郡さんの強い意思。家から出てきた蒲郡さんは人を殺したというのに後悔はなかった、清々しいほどに。
伊吹さんは間に合わなかった。でも、蒲郡さんは「お前に何もできることは無かった」とも言っていた。
…間に合わなかったんじゃなくて、止める術がなかったの間違いなのかもしれない。
どちらにせよ、またなんて声を掛けたらいいかわからない。
無い細胞で考えても答えなんて出ないよなー。
ふと顔を上げて伊吹さんの机を見る。相変わらず紙が散らかっていてきったない。
資料を整頓してあげると、皮肉にも「これくらい簡単に伊吹さんの複雑な心も整えて上げられたらいいのに。」なんて思ってしまった。
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芝浦署から分駐所に戻ってきたらまたAが頭をグリグリ机に押し付けていた。変な癖だな、と思いながら「また痛くて泣く羽目になるぞ」と声を掛ける。
「…もう痛くないです」
ファイルで見えなかったが今回は枕を机に敷いている。前回の机の堅さを学んだのか。
「…ガマさんの話聞いて泣くかと思ったけど、平気だったな。」
あの時、俺の隣で塀に背を預けながら無言で会話を聞いていたAの表情は、何か考えているようだったけど泣きそうには見えず、ただただ強い眼差しを、ガマさんのいる部屋の方向に向けていた。
「泣きませんよ、
…泣いていいのは伊吹さんで、私じゃない。」
「伊吹がどこにいるかわかるか?」
「署の屋上にいると思いますよ。休憩もうそろそろ終わりますし、呼んできてください。
相棒の志摩さんの出番ですよ」
「お前もだろ、お前も同じ404の相棒」
Aは一瞬驚いたような表情をすると誤魔化すようにフッと笑って「ほら、メロンパン号冷やしておくんで」と俺の背中を押した。
俺を分駐所の外に無理やり追いやると、俺の有無を聞かずAは「任せました」と即座に駐車場へ向かう。そんな彼女の悲しげな横顔を俺は気づかないふりをした。
〜第8話 君の笑顔 完〜
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月18日 17時