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幸い弾道は逸れたため私は無傷ではあるが、

「志摩さん下りないで!!」

「あー…もう遅い」

今の発砲音で駆けつけようとバスを降りた志摩さんの首元に銃が突き付けられた。
人質を取られては無暗に動けない。私と冴羽の距離が離れてるならなおさら。もう伊吹さんと志摩さん頼みだ。

それなのに…

気が狂ったのか、志摩さんは親指で銃口を塞ぐと、静かに落ち着いた声で

「今撃てば暴発してお互いに死ぬな」

と言った。
思いがけない行動に、冴羽だけでなく私も動揺を隠せない。


「お前の手が吹っ飛ぶだけだ!」
「警察官の俺の方が銃に詳しい」

「そ、そんなの嘘だ!」

「じゃあ撃てば?」


私はこの時志摩さんに対して、初めて、心の底から、ばかじゃないの?と思った。
警察官であるからこそ、作り話だというのは目に見えて分かる。
それにも関わらず志摩さんは冴羽の持つ銃を掴んだまま「いいよ、俺は」と言って今度は自分の額に銃口を向けさせた。

私の角度からじゃ志摩さんの表情は見えない。けれど声色を聞いてそれは本心で言ってるのではないかと錯覚を覚えた。

カチャッという小さな金属音が脳内にやけに大きく響く。今もし撃たれたなら、志摩さんは一瞬であの世行きだ。そんなの頭では理解してるのにどうしても体が動かなかった。

トリガーが引かれる寸前、伊吹さんが冴羽の銃を蹴り飛ばす。そしてさっきまでの沈黙が嘘のように容易く冴羽を拘束した。

その様子に、立ち尽くしてしまった私も我に返って、バスに乗り込んだ。
バスの乗客が通路を遮っている中「警察です、ちょっと座っててください」と声をかけながら奥に進む。
やっと青池の姿を確認できたが、目は閉じられていて力は全く入っていない。
「青池さん!!」と名前を呼びかけるも返事はない。首元に手をやって脈を確認した。

「どうだ、A…」
「脈がない!!」

首を横に振ると、伊吹さんは私の肩を押して慌てた様子で青池をバスから降ろした。
私は急いでポケットから手袋を取り出し、トランクの中身を確認する。


「……!?
 志摩さん…」
「1億円が消えたな。」


間に合わなかった、また。

悔しい。ただただ悔しい。
私は唇を噛み締めて、こみ上げてくる涙を必死に堪えた。






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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月14日 21時

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