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「俺は今日Aちゃんのカタツムリな一面が見れて嬉しかったけどねー」
「…伊吹さんは犬ですかね」
「えぇ!?」
「猪突猛進、真っ直ぐな人」
「お、それは褒めてる方か」
にやにやした表情を見てちょっとでも褒めたことを後悔した。でもさっき言ったことは本心だから、否定はしないでおこう。
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非常階段から、カンッカンッと足音が聞こえてきた。
香坂さんと心向くままに話せたのだろうか。聞くのは野暮だと思って何も聞かずに余っていた缶を渡した。
「なぁ、志摩ちゃん。」
「ん?」
「刑事やめたりしないよな?」
「今やめたら俺は一生自分を許せない。
…何度も何度もブーメランくらいながら続けるよ」
「ブーメラン?」
「ウイスキーは飲めないってこと」
理解ができなかったのかなんなのか「むじぃこと言うなぁー」と伊吹さんはぼやいた。
でも刑事をやめないという宣言を聞けて満足そうに笑った。
「…ま、安心しろ。俺の生命線は長い」
志摩さんに向かって右の手のひらを見せる。
言ってることはめちゃくちゃだけど、志摩さんは泣きそうな顔をして顔を逸らした。私も、その一言に少しだけ視界がにじんだ。
「殺しても死なない男。それが、
イブキ・アーイ!」
「…今心の底からイラッとした。」
「右に同じです」
なぁんで!!とおちゃらけた様子に安心を覚える。
彼の過去を知ったとしても変わることのない関係が目に見えたからだ。
すると志摩さんの携帯が鳴る。
「あぁ、ごめん
隊長…はい、今ですか?伊吹とAといて…
了解です」
「隊長がどうかしたの?」
「家でバーベキューするから来ないかって」
「え!!行く行く絶対行く!!!」
電話の内容を話すと、伊吹さんはしっぽを振るようにして喜んだ。
志摩さんがうざそうに顔を背ける。
私は羽野麦がいるなら論外だ。行く訳がない。
「私はパスで」
「なんか予定あんの?」
「…眠すぎて死にそうなので寝ます」
ふっと笑いながら志摩さんを見る。
今回は動揺していない。怪しまれることはないだろう。
「…夜寝てないからだろ」
「はい。ま、そういうことなんでお疲れ様でした」
そう言ってそそくさと非常階段を下りる。
今日は電車で帰ろう。
駅まで歩きながら缶コーヒーを一口、一口と少しずつ飲む。
苦手ではない…むしろ好きなはずなのに、コーヒーの苦みが強く感じられて私は思わず顔を歪めた。
〜第6章 リフレイン 完〜
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月14日 21時