のんきな猫と死にたがり 2 (ページ44)

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『なんだ。』

「事故だった。香坂の手紙も読んだ。」

スマホ越しに面倒くさそうな志摩さんの声が聞こえる。
何も言わずにスピーカーにしてくれたおかげで私にも会話がだだ漏れだ。

『………

　なんだほんとに調べたのか。』

「あったりめぇよ！！
　俺は有言実行の藍ちゃんなんだよー。

　でも、1個だけわかんなくてさー。なぁ志摩…
　生きてる香坂に最後にあったのはいつ？志摩はそん時、なんて声かけたの？

　調べても、そこはわかんなかった」

『降参か？』
「こーさん！
　教えて？」

『最後は…

　あいつが肩を落としてあの手紙を書いてた時。それから、

　あのビルの屋上。』

「あの夜……屋上行ったの？」

少しの沈黙の後聞こえた言葉は“行かなかった”
喉から絞り出したように放たれたその一言に、志摩さんの後悔が見えた気がした。

『俺はどっちにも行かなかった。
　チャンスはあった、何度も。だけど声をかけなかった。いつの間にか帰ったあいつがメールしてきて、
　“うちの屋上で飲みませんか？志摩さんの好きな酒買って待ってます。”って。
　こっちは始末書書いてんのにふざけんな。何が飲もうだ、

　無視した。

　あれから何度も…
　何度も何度もなんっどもなんっどもなんども！！頭の中で繰り返す。

　あの時声かけていたら、
　あの時屋上に行ってたら、
　もっと前俺があいつの異変に気づいていたら…

　スイッチはもう、いくらでもあった。
　だけど現実の俺はそれを全部見過ごした。見ないふりした。
　俺があいつに、最後にかけた言葉は“進退は自分で決めろ”

　事故！？俺はそうは思えない。
　悔いても悔いても時間は戻らない。』

“他人も自分も信じない”
“人の命も返らない。どんなに願っても……
　お前らは長生きしろよ。”
“誰と出会うか、出会わないか。この人の行く先を変えるスイッチは何か”

今まで志摩さんにかけられてきた言葉が頭を過る。
その時は深く考えなかったけど、今やっと全ての言葉が重く圧し掛かってきた。痛いくらいに。
いつだって志摩さんの頭の中にはこの事件がこびりついて離れなかったのだ。

「志摩…
　香坂が死んだのって2013年のタコの日の深夜2時頃だよな？」

屋上から見える景色を見渡していた伊吹さんは突然そんなことを言い出した。

『タコ？？』
「8月8日」
「そうそう！！！！」

何の前触れもなく伊吹さんは電話を切ると慌てた様子で階段を下って行った。

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