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「Aも来てくれると助かるんだけど」
「なんでですか」
「羽野麦と知り合いなんだろ?仲介役として。」
志摩さんはいつもの無表情だ。
何考えてるのかわからない。
2年前の私がしてしまった事を知ってて言っているのか、はたまた、本当にただの知り合いだと思っているのか
「A?」
「すみません、今日マメジに呼ばれてて…」
「マメジ…」
パッと頭に浮かんだ奴の名前を出してしまった。怪しまれるかな、と思うと案外納得してくれたみたいで「じゃあおつかれ」と言って出て行く。
パッと浮かんだ奴がマメジなことに少し笑えてくるが、初めて彼に感謝した。
「ふぅ…」
話が終わったことに安心したのと同時に、心拍数が上昇する。この話をされたのが誰もいない廊下でよかった。
何回か深呼吸を繰り返して動揺が落ち着いたころ、私は分駐所を出て隊長室に向かった。
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「A、最低でもノックをしなさい。
…どうしたの」
「隊長って志摩さんに2年前のこと話しましたか」
いつものポーカーフェイスはどこに行ったのか、Aの表情は焦りを色濃く写している。
桔梗は黙ったまま、Aの顔から机上の報告書に視線を落とした。
…聞かれるとは思っていたからすぐに言い訳は出てきた。
「志摩が、ハムちゃんに会うのちょっと不安そうだったからAを誘ってみれば?って言った。
それだけ」
「隊長は断るってわかってましたよね?」
桔梗は微苦笑しながらも、「ハムちゃんがあなたと話がしたいって、会いたがってる」と伝えると、間髪入れずに「私は会いたくない」と拒絶を示した。
桔梗はその真意をわかっていた。ハムちゃんを嫌う拒絶ではなく、合わせる顔がないという彼女の罪の意識からの拒絶。
切り替えが早い彼女の中に唯一残っているだろう苦い思い出。
これ以上話しても彼女の意思は変わらないだろう。
違う話題に逸らしてあげよう、と桔梗はまたAの顔を見た。
「志摩が言ってたけど、仮眠はちゃんと取りなさい。」
「じゃあここの仮眠室借りていいですか?今超絶眠いです」
話を逸らせば焦りは消えて、いつも通りの表情に戻っていた。
やっぱり切り替えが早いな、こいつは…
いつもなら家に帰れと追い返すのだが
「…今日だけね」
と不本意ながらも桔梗は受け入れて上げた。
「ありがとうございまーす」と気持ちが全く入っていない感謝の言葉を最後にAは隊長室を後にした。
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月14日 21時