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水森の事件から数日後、私達は昼休憩に署の駐車場へ出ていた。
どうやら伊吹さんがマイさんを呼んで、もんじゃ焼きを振舞うらしい。
今朝いつも以上にテンションが上がっていたのはこれが原因だったようだ。
「はーい!もんじゃ焼きー!!」
「もんじゃ?これ?
……食べ物?」
見た目が気に入らないのか、マイさんは全然手を付けようとしなかった。
「…特定技能1号受けてるんだって?」
「うん!」
「特定技能1号?」
「新しい制度。雇用先との直接契約で日本人と同程度の給料が義務付けられてる。」
「決まったら沖縄のホテルで働く!
フルタイムOK!今度は多分……
ダイジョウブ!」
マイさんは満面の笑みでそう言った。
あんなに辛いことがあったはずなのに、淀みのない…すっごくきれいな笑顔。
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「水森さんは優しすぎたんですかね」
「ん?どういうこと」
もんじゃも食べ終わり後片付けをしていると、もう姿の見えないマイの後を追う様にAがそう呟いた。
「助けてあげたくても自分の力じゃ無理だから、たくさん耐えて、我慢して、苦しんで苦しんで……罪悪感に圧し潰されて爆発した結果がこれです。」
伊吹の角度からは彼女の表情は見えない。
ただ、いつもみたいな、何も考えていないAとは違うことは確かだった。
目を離した隙にどこか行くのではないか、今はその“どこか”が遠くな気がしてならなかった。
「水森は…少しは楽になったのかな、罪を叫んで裁かれることで。
気づいてしまってズレた世界を伊達メガネでごまかして、ごまかしきれなくなったんだろうな、きっと」
湿っぽい空気に耐え切れなくなって「2人ともむずいよ!もっとわかりやすく言えよ!」と叫べば、いつものメロンパン号内のような騒がしい雰囲気に戻る。それに安心してAは小さく微笑んだ。
「…伊吹はなんで伊達メガネかけてんの?」
「えっ?かっこいいから。
超かっこよくない?てかこれサングラスね」
「かっこいいかっこいい」
「2回言うな。心を込めて言えー!」
「メチャクチャカッコイイデスネ」
「Aちゃんそれ棒読みって言うんだよ」
「……ほら行くぞ。
昼休み終わり」
志摩の言葉に「はい」と返事をしてそそくさと戻るAの泣きそうな表情に、2人は気づくことがなかった。
〜第5章 夢の島 完〜
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月14日 21時