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「俺さ、パパ立候補しよっかな。隊長の息子の。1人で大変じゃん?」
赤信号になって停車したメロンパン号内で突然、伊吹さんから問題発言が発せられる。
下心見え見えの声色で。
「…突然どうしたんですか」
「ん?子供可愛いなーって。」
話の辻褄が合わないまま、伊吹さんは車内にある謎のボタンを押して陽気な音楽を流した。
《メロンメーロンまるごとメロン》
メロンパン号のテーマソングらしい。ここまで精密に作られていたのかこの車は、とある意味感心しする。
歌に反応してか、フロントガラス越しに子どもたちが手を振ってきた。
「メロンを流すな!」
「いや、みんな喜んでんじゃん。」
「なんだこの歌」
呆れながらも志摩さんは組んでいた腕を解いて控えめに手を振る。わーツンデレだこの人。
横断歩道を渡る小学生を見ながら、伊吹さんは懐かしそうに目を細めた。
「…前にさ、タイガーマスク現象ってあったじゃん?」
タイガーマスク現象といえば、東日本の震災前後にあった出来事で、タイガーマスクを名乗る人が児童福祉施設へランドセルを寄付したことだ。当時、話題だったから私もテレビで見た覚えがある。
「俺も真似して送ったんだよねー。
ランドセル3つ買って近所の施設にあしながデカより。って手紙つけて置いてきた。でもニュースでさ……」
「ランドセルだけが大量に贈られて施設の人達が“いらない”って言ってましたね」
「そうそう!!
いやー、あれは衝撃だったなぁ…」
「贈ったやつがこんなに身近にいた事が衝撃だ」
「いや、やりたくなんなかった?」
「…ランドセルよりは価値のあるものを寄付したほうが嬉しいでしょう」
「夢ないなーAちゃん」
「俺はあの現象を見て世の中にはこんなにもいいことをしたい奴がいたんだなって思ったよ」
「誰だっていいことしたいだろ」
「そうかね
……その割に世界は良くならない」
志摩さんがKYで陽気な音楽を止めた。
「なんでだ?」
「良くなるには心の余裕と金銭的余裕がいる」
「じゃあみんな裕福になれば世界平和が訪れる?」
「いや、そうでもないな」
「なんだよ」
「金持ちは金儲けのために悪いことをする。」
「ダメじゃん」
「この世に金がある限り事件は起こる。」
その一言で、昔言われた一言を思い出した。
『平和を感じるには事件が起こらないといけない』
皮肉なものだな、と無意識に鼻で笑ってしまった。
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月14日 21時