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「隊長ってさー、Aちゃんに対してすっごい過保護だよね〜……

 なんで?」


「Aちゃん…?」
「うん。Aちゃん」



陣馬が"第3の家"と言い張る居酒屋に来て早1時間は経過しただろうか、
既に酔いが十分に回っている伊吹は、ポツリとそう呟いた。
さっきまで「隊長に息子がいるなんて」とか「父親はどんな人なの」とか話していたのに、その一言で話題が一気にガラッと変わる。
志摩は面倒くさそうに「なんでってなんだよ」と返してやった。


「だってさー、一人であそこまで動けちゃうんだから心配いらなくない?
 まぁ、さすがに昨日のはビビったけど」


昨夜、志摩が見つけたローファーがなければ、伊吹があの瞬間駆けつけていなければ
わいせつ犯に襲われていたのはAだ。
間一髪のところで捕らえられたからよかったが、もし少しでも遅かったら…あの能天気な小娘でも心に傷を負ってしまうかもしれない。

……全てがタラレバで済んだのが幸いだった。


「周りが男ばっかの世界なんだ。同じ女っていうだけで気に掛けるのは当たり前じゃねぇか?
 ほら、嬢ちゃんは可愛い見た目と違ってサバサバしてるからな!」


「ッパッパッ!」と魚呼吸みたいなことをする陣馬は多分、いや大分酔ってる。
志摩が「それは鯖」と突っ込むと満足げに笑った。


「ん?Aちゃんが鯖?
 そんなんに見えないよ??」

「いや、どっちかっつーと捕食者の方だろ。
 ……ほら、猫とか」


志摩の言葉に、あー、と納得する。

彼女を動物で例えるなら猫がふさわしい。

Aはどこか他人任せの、伊吹のように手綱を引かなければいけないわけではない。
一人で行動できて、一人で考えられて、一人で解決することができる。しかもその行動を他人に見せることはない。
相棒である二人にも弱みを見せないような、良く言えば強くて、悪く言えば頑固。
隙がないといえばそうとも取れる彼女に、志摩は頭を抱えるしかなかった。
隊長に目を離すなと言われてるけど、無理難題だ。
全てが事後報告、怒ってもその行動は治る気配がない。


「まぁ、あれだな。一人で突っ走るところを止めてやるのがお前らの仕事だろ?
 ちゃんと嬢ちゃんを気にかけてやれよ」


伊吹だけでなかった、陣馬さんも俺任せかよ。
そう思いながらも口にすることはなく志摩は「はい」と返事をして、もう温くなってしまったグラス半分のビールを一気に飲み干した。





〜第3話 分岐点 完〜

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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月12日 0時

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