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加々見を追って着いた先は年季の入った古い家だった。空き家?売り物件だ。
彼が中に入ったのを見計らって私も後を追う。
呼吸が乱れているな。走ったからというよりも興奮気味で落ち着かない様子。さらに包丁まで取り出して部屋を渡って…。
突然、プルルル、と電話が鳴った。
私のかと思って一瞬焦ったが鳴ったのは加々見のスマホだった。
「…あいつ殺して、僕も死ぬ。
十数年ぶりの、我が家、岸も来たことあったよね」
内容を聞いていると、専務から受けたパワハラと同じようなことを父親にもされていたらしい。
復讐しに来たのか。今以上に暴走されると悪い、縁側から部屋に向かおうとした瞬間、後ろから肩を掴まれた。後ろを振り返ると、もう見慣れた癖毛が目に入った。
「お父さん死んだんだって、2年前交通事故で。もうここには誰も住んでない。今朝上司を刺し殺 したのはお前か?違うよな」
「父親の当てつけで上司を殺したのか?
そんなことのために自分の人生を棒に振ったのか?」
狼狽えた加々見は後ろに下がりながら包丁を私達に向けてくる。
「違う!
僕はただ…
許せなかっただけだ
どうして…こんなはずじゃない!
始まりはこいつの……こいつ!こいつ!!!」
志摩さんが持っていた写真が床に散らばる。加々見の父親の写真だ。畳諸共抉る勢いで包丁で写真を裂きまくる。
「それが事故で死んだ?自分の息子が人を殺したこもを知らずになんの復讐にもならないよ!!
まだ1度も謝って貰ってない!!」
父親への恨みを数ミリ程度の紙切れに八つ当たりしてるのだろう、
…そんなことしても心は晴れないのに。
「加々見さん、理由はどうあれ命は取り返しがつかないんだよ」
「お前バカだな!殺しちゃダメなんだよ!!相手がどんなにクズでも、ムカついても、殺した方が負けだ」
その言葉に理性というものが蘇り、加々見は嗚咽を漏らした。
伊吹さんも「無実でいて欲しかったな…」と、本音を吐露した。
志摩さんが手錠を取り出し、無言で受け取ると加々見の手首にそれをかけた。
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加々見の身柄を外で引き渡していると後ろから夫婦の声が聞こえた。
「ごめんね」
「最後まで付き合うって約束したのにごめんね!いつかまた3人でドライブしよう!今度こそうどん食おう!!」
「いつかまたね」
「ごめんね」
彼にとってその4文字が魔法の言葉だったようで
さっきまで淀んでいた彼の心が綺麗に浄化されていた。
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作者名:古町小町 | 作成日時:2020年10月12日 0時