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一瞬焦ってしまったけど、こうちゃんなら欺ける気がする。彼は誰よりも真っすぐで嘘が付けない子で信じちゃう子だから。これは褒めてます。
「途中で須貝さんと鉢合わせてさぁ。買い出し、ほとんど須貝さんにやってもらっちゃった」
「あ、そう、なんですね」
「うん、こうちゃんはこれからお昼?この前新しくできた定食屋さん美味しかったよ」
「あ!そこ行こうと思ってたんです!!」
「いいねぇ、行ってらっしゃい」
最初こそ私と須貝さんの顔を交互に見比べたりしていたけど、何とか誤魔化せた気がする。きっと今頃こうちゃんは「さっきのは聞き間違いか〜」なんて思ってるはず。須貝さんって2回も言ったから大丈夫だと思う。
「焦りすぎでしょう」
「こうちゃんでよかった、山本くんとかじゃ誤魔化せなかった気がする」
「別に誤魔化さなくたっていいのに」
「ごめんなさい、でもあと少しなんです。今日、大きなお仕事もらえたんです。だから、あと少し」
「急かしたつもりじゃないよ、ごめんごめん、いつまでも待つからね」
須貝さんの顔を見たら何だか泣いてしまいそうになった。何度も泣くわけにはいかないでしょう。そう簡単に泣かれたら面倒に違いない。ぐっと下唇を噛んで上を見て、涙を荒業で体内に引っ込める。
オフィスに戻ってお昼ご飯を済ませたら、先ほどの夢のような二人きりの時間は余韻も残さず、あっという間にいつも通りの日常に戻ってしまった。
今日も変わらず直帰して、家のパソコンに電源を入れる。いつもなら、参加するコンペを探して、デザイン案を大量に書き出すという作業がある。けれど、今日は違う。
福良さんに渡されたグッズ販売についての資料に目を通す。資料の厚みに、改めて任された仕事の大きさを目の前に突き付けられた気になる。
頭の中にある引き出しを全部ひっくり返して、求められたものに近づくようブラッシュアップしていく。比較的時間はたっぷり用意してくれてはいるが、早く提出するのに越したことはない。
男女問わず着用できそうなもの、シンプルだけどクイズノックらしさを感じられるもの、普段使いできそうなもの。家にあるバンドTシャツも引っ張り出して、どういうデザインに惹かれるかを分析する。
前日寝ていなかったにも関わらず、眠気はいつになってもやってこない。それでも世間ではアラサーと呼ばれる年齢になるのだろうから寝たい。結局眠気はいつになっても来なくて、前職での繁忙期以来の2日続けての徹夜をしてしまった。
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月華(プロフ) - 初めまして。月華と申します。いつも更新を楽しみにしています。これからまた山本さんもなんとなく加わって、関係性がどうなっていくのか?楽しみにしています。 (2020年9月7日 22時) (レス) id: 7021cebe65 (このIDを非表示/違反報告)
かもめ(プロフ) - 亜杞さん» わーん!誤字!ご指摘ありがとうございます、気を付けます。 (2020年9月3日 2時) (レス) id: 87fffe4b37 (このIDを非表示/違反報告)
亜杞(プロフ) - 初コメント失礼します。“4”の中の言葉で“誘いそう”が“誘いさう”になってしまってます。素敵な文章ゆえに気になってしまって。。。今後も更新されるのを楽しみにしています。失礼しました。 (2020年9月3日 1時) (レス) id: 4b3f3a4234 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かもめ | 作成日時:2020年8月26日 19時