ネガ_sgi ページ17
彼女がオークションで中古のフィルムカメラを5000円で買ったらしい。世の中には一眼レフというもっと画質のいいものが、スマートフォンというもっと扱いやすいものがあるのに。今更なんでフィルムカメラなのだろう。
ほら、現に使い方分かってないじゃない。フィルムをいれて、そうそう、そんで何回かシャッターを切るの。あー、違う違う。
何だかこれ既視感がある。あぁ、そうだ、ワインを開けられないこうちゃんを見てるみたい。こうちゃんもきっとフィルムカメラにフィルムを入れることはできないだろうなぁ。絶対にフィルム感光させてダメにしてしまうだろう。
「えぇ、そんでこれどうするんだ...」
無機質なカメラに喋りかけたって返事はないのに、彼女はずっとカメラに向かって喋ってる。あまりにも進まないので、手を出そうとしたら、自分でやりたいと頬を膨らまされた。
「できた!」
「おー、やっと」
「ごめんごめん、撮っていい?」
「いいけど、なんでまたいきなりフィルムカメラなの」
「もうちょっとで私たち離れ離れになるでしょ」
フィルムカメラの設定が終わり嬉しそうにしていた表情は、ふっと曇ってまるで秋空だ。彼女は大学を卒業し、就職をして関西に行ってしまう。俺はまだ変わらずここにいるから、今迄みたいに頻繁に会うことはできない。先程の自分でやる宣言は一人でやれるようになるためだったんだなぁ。
「そしたらね、月1でフィルム送るから。そんで駿貴さんに現像してもらうの」
「私が何を見て、どんな時に貴方に共有したいと思うかとか。そういうの知ってほしい」
「SNSとかは、なんか味気ないじゃん」
あまりに今まで彼女が寂しいだの、悲しいといったネガティブな感情を出してこないものだから、てっきりそんな気持ちないのだと思っていた。けど、しっかり涙ぐんだりしちゃってる。彼女は俺が思っていたより、少しだけ弱かったみたいだ。ごめん、気づいてあげられなくて。
「じゃあ、俺も送るよ。そんで会った時にお気に入りの写真を見せ合いっこしよう」
「駿貴さんカメラもってないじゃん」
「買うよ、大丈夫」
「駿貴さんが思ってる以上に、写真下手くそだと思うよ」
「俺のだって現像したら全部ご飯かもしれないよ」
「それでもいいよ」
「俺だっていいよ」
彼女の手の中にあるカメラを借りてツーショットをとる。来月までどう映っているか分からないのは、少し、いや、かなり面倒だけど目の前の彼女の笑顔に俺は満足してしまった。
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作者名:かもめ | 作成日時:2020年8月24日 11時