短編集【QK】 (ページ14)

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過去の話をしよう_sgi ページ14

私が高校の同窓会に足を運ぶのは成人式以来で、実に8年ぶりだった。なぜそんなに間が空いたのかというと元彼と会うのが嫌だとか、結婚してない自分が恥ずかしいとか、そんな女性的な理由ではなくて、ただ単に研究が忙しかったから。
この歳で研究というのも、私が京都大学で博士課程を受けているから。研究が進み博士号取得の目処が立ち、来年以降の就職先が決まったため今年は同窓会に参加することにした。

「え、Aさん、来年から東大の講師なん？！」
「いや正確にはその助手…」
「じゃあ追々は教授ってこと？」
「まぁ、そうなるん…かな」
「なんで京大から東大？」
「上京ってやっぱ憧れるやん」

なんて嘘。
東大には私が高校時代からずっと好きだった彼がいるから。専攻内容も違えば、多分キャンパスも違う。それでも近くに行けば何かきっと変わる気がした。
高校の時、私たちはテストの点数で何回も競い合った。ほとんど彼の勝利であったが、今思えば彼に負けたくないという気持ちで受験勉強も頑張れたのだから彼には感謝しなくてはいけない。

彼は誰よりもずっと賢いのに、それに驕らずとても謙虚だった。分からない問題があるなら真っ先に聞くし、他人をすごいと認められる人だった。
そんな人を好きにならない訳がなくて、私は昔から、今もずっと彼の背中を追いかけていた。

もちろん、そんな邪な気持ちだけじゃなくて研究を進めていく上で教わりたい先生方が東大にいたというのもある。

博士号取得には4年かかってしまったけど、浪人をしていない私は彼より早く学生という地位を去ることになる。今年の同窓会には彼の姿はなくて、寂しい思いと同時に少しだけ安心する自分もいた。

同窓会が終わった翌日、彼の友達が大方私のことを喋ったのだろう、彼から連絡が来ていた。

『来年からの東京ってマジ？Aが東京きて都合が会えば飲みに行こう』

社交辞令で終わらせたくない私は、家探しのためとか適当な理由をつけて、東京に行く予定を無理やり立てた。

「**日はどう？家探しに東京行くんだけど」
『そうなん？その日全部オフだわ、家探しついてこか？』

正直な話、何区の治安がどうとか全くの知識がなかった私はありがたくその提案を受け入れる。
きたるXデーに向けて、私は沢山の準備をする。新幹線のチケット、服装やメイク、会ってまず何を話そうか。私がずっと貴方に言えなかった気持ちを話したら、彼はどんな顔をするだろうか。