〜狂愛の館へようこそ〜 【白鳥沢・青葉城西】

薄暗い記憶 * ページ37

*

*

ぼんやりと明かりの灯る薄暗い廊下を

少女は静かに歩く

この広い【館】で道中迷いながらも

何とか首領室に辿り着いた少女は

そっと、金色の葉の装飾が施された扉を叩いた

及「入っていいよ」

部屋の中に居る男の声が扉越しに響く

少女は一度目を瞑り、深く息を吸い込み、吐いた

「失礼します」

彼女が扉を開けると

及「やぁ、よく来たねぇ」

及川はにこやかな笑みを浮かべ、両腕を広げて少女を歓迎した

少女は警戒を解かないまま、ゆっくりと部屋に足を踏み入れる

及「来てくれて嬉しいよ」

「………」

及「そんな顔しないで？」

及川が少女の方に手を伸ばす

「っ……」

少女は無意識に身を退こうとするが……


及「動くな」


先程までとは違う低い、有無を言わさぬ声に

金縛りに合ったように動きを止めた

及「そう…いいコだね……」

彼の骨張った手が少女の柔らかな頬を撫で、引き寄せる

ﾁｭｯ

軽いリップ音が静かな部屋に鳴る

「っ……ん……」

少女はただじっと耐えた

及「………」

及川は更に深く、濃く口付けをする

「…んん……」

及「……ははっ……ホントに抵抗しないんだ」

「………」

少女は口を閉ざしたまま俯く

それに及川は、核心をつく言葉を言い放った


及「そんなに家族や友達が大事？」


薄笑いを浮かべ、馬鹿にしたようにそう言った及川を

少女はキッと睨み上げる

「大…事に……決まってる……！」

涙を浮かべながら及川の服を掴む

「誰だって家族や友達は大事よ！貴方達には大事な人は居ないの？！」

思わぬ彼女の反論に、及川は目を丸くする

及「大事な…人……」

彼は口ごもる

眉間に皺を寄せ、口に手を当て、視線は何処か遠くを見つめている

初めて見た彼の思い詰まったような顔に

少女は戸惑い、ただ彼の顔を見上げていた

及「……居た………たくさん………」

「え……？」

及「家族……も……友達……も……」

部屋の静寂は

彼の言葉を鮮明に彼女の脳に焼き付ける

及「……何で……俺は………」

そこまで言って

及川は視線を少女に戻し、普段通りの爽やかな笑顔を向けた

及「いや、居ないね」

「で、でも……さっき居る…って」

彼の笑顔は少しずつ影を帯びていく

及「そんなの居ない。必要ないからね。
俺にはリーフの皆が居れば充分さ」

「………」

及「それより、シオンちゃん…」

先程までの顔がまるで無かったことのように、及川は冷たく笑う




及「今夜は俺を…楽しませてくれるんだよね…？」

叫ぶ声 囁く声 *→← 葛藤と予言 *

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す