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(こんな温もりを忘れていたなんて、私は愚かだ)
カイリはユウの体を優しく撫でる。
その目からも一筋の涙が流れていた。
「ったく、苦労駆けさせやがって」
ランスはしばらく二人だけにさせてやろうとその場を離れようと二人に背を向けて歩き出す。
そのときランスの目に、自分の周りにちらつく赤い糸が映った。
それはどうも自分の首に巻き付いているらしかった。
なんだこれ、と思いながらランスは糸を引きちぎる。
しかしすぐにまたまとわりついていく。
何度引きちぎっても結果は同じだった。
ランスは諦めて建物の壁に寄り掛かかる。
「…北の洞窟に着いたら、ユウともお別れか」
寂しくなるなと思う反面、ランスの中にはモヤモヤとした思いがあった。
それは、イリアのことだ。
ユウは大分あいつを慕っているが、俺はあいつの事を好きにはなれない。
それを決定づけたのは、数年前の出来事。
俺がユウの家を訪ねたときだった。
*
「おーい、ユウー?イリアー?」
その日の夕方、いつも通りにユウの家を訪ねるも、返事は無かった。
おかしい、いつもはすぐ出てくるはずなのに、と思い玄関のドアノブを捻ると鍵が空いている。
少し不安になった俺は家の扉を開ける。
玄関にユウの靴は無く、イリアの靴だけがぽつんと置かれていた。
「イリアー、居るなら返事をしろよー」
(あいつのことだ、どうせ部屋に籠って本でも読んでるんだろ)
と俺は特に何も考えずに声を掛け続ける。
「…イリア?おーい、イリ」
グシャッ
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作者名:あまちゃん | 作成日時:2023年11月20日 6時