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少女の声はノイズ交じりの声ではなくなっていた。
気持ちがあふれてしまったのか、泣きながらその場に座り込んでしまった。
少女はどれだけの間この大きな館でひとりぼっちだったのか。
自分よりも幼い少女の姿を見て自分も泣きそうになる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ちゃんといい子にするから…いい子で待てるから…行かないで」
ユウは手元のオルゴールを見る。
このオルゴールは、少女が大好きな父親から貰った宝物。
―――この おと を きくと さびしいきもち が ふきとんじゃうの
ユウはオルゴールを手に少女のもとへ歩み寄る。
「…いるよ」
気づけばユウはそう言っていた。
「え…?」
「お父さんは、ずっと、君のそばにいるよ」
その人の体は消えてしまっても、その人の存在は誰かが覚えている限り生き続ける。
誰かが僕にそう教えてくれたっけ。
「だから、君は、一人じゃないよ」
「…ほんと?」
少女の大きな瞳に映る僕と目が合う。
「うん」
すると少女は安心したのか、口角を緩めた。
ちらちらと少女の体がオーブのようなものへと分散し始める。
首に巻きつく赤い糸のようなものはするりと抜け落ち、地面に落ちる前に消えていった。
ユウはそれを届ける。
あの子はこれからどこへ行くのだろうか。
大好きな父親のもとへ生まれ変わって、前世で送るはずだった幸せな人生を送るのだろうか。
少女が完全に消えてしまうと、今まで屋敷を包んでいた重い空気がだんだんと晴れていった。
ユウははぐれてしまった二人を探しに行こうと部屋を出ようとした。
カシャンッ…
ガラス同士がぶつかり合うのが聞こえる。
たぶん上につられているシャンデリアだろう、とユウは上を見上げる。
しかしそこにあったのは重力に負けて下へ落下してくるシャンデリアだった。
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作者名:あまちゃん | 作成日時:2023年4月9日 22時