妖と祓い師 (ページ2)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:860 hit

２ページ2

20分ほど、木から漏れた月明かりを頼りに歩くと、微かな空間の歪みを見つけた。"姿隠しの術"の綻びだ。

おそらくこの中に、狐の住まう"境界"がある。札を貼れば穴を空けられるだろう。幸い、札術は得意な方だ。

気づかれないように、慎重にすればなんとか……よし、空いた。

術内は濃い妖気が充満している。慣れていない人が踏み入れれば即気絶だろう。これが磁場、か。

音を立てないように、箒に乗って進む。降りやすいよう、横乗り。

仄かに火の臭いがする。その方向に妖の屋敷があると踏んで進む。

進めば進むほど、妖気が濃くなっていく。その代わり、灯りと屋敷が姿を表した。そして人影も。

？「おいこら、やめんか！おいっ」

庭でキツネと戯れている。いや、遊ばれている、のほうが正しいような……あれが狐か。

これは好都合。狐が私に気づいていのならば、弓で一刺しすればいい。

どうせ死なないし、殺すことが目的ではない。狐の膨らみすぎた妖気を壺に回収できればそれでOＫだ。

木の上の方まで上昇して、枝の間から狐の心臓を狙う。

箒の上に立ち、矢をつがえ、そして……

？「なぁにしてるんです？」

真後ろから、さっき聞いたのと同じ声が聞こえた。

咄嗟に箒を反転して、声の主に向き直る。

幹に手を添え、枝に立つ人型。緑の和装に赤い首巻き、黒縁眼鏡、きつね面に下駄。

狐だ。

庭にはこちらを見上げるキツネだけで、あの人影はない。化かされたか。

狐「ふぅん、よそ見しとる暇あるんや」

いつの間にか、目の前で浮いていた。とんでもない速さで私に詰め寄ったのだ。

眼鏡の奥、青みのかかった黒い瞳に見つけられ、無意識に後ろへ後ずさ……ろうとした。

ふわ、と落ちる感覚。しまった、私が立っていたのは箒の上だった。

かなり高さがあるが、地面までそう時間は長くない。

狐はニヤリと口角を上げて、私に長い尻尾を伸ばした。それも9本も。

それを一本、刀でたたっ斬る。着られた尻尾の先は霧散して、妖気となった。

至近距離で発せられた妖気を吸い込んでしまう。意識が飛びかけた私は地面に当たる寸前で、狐の尻尾に包み込まれた。