【基礎工事2】 ページ44
このままでは竜胆さんの都合のいいように話が進んでしまう。これは大坂の陣、大坂城外堀埋められ問題レベルの一大事だ。私生活で外堀を埋められるなんて冗談じゃない。
職場にこの自己紹介の認識が浸透しようものなら、この手の話が好きな女性社員に根掘り葉掘り聞かれそうだし、私はそっちの世界の人を職場の人に広めることになる。そんなの……死、あるのみ。絶対に阻止だ!
埋めるなら そばから掘ろう ホトトギス
「私達、付き合ってな「Aも久しぶりみてぇだからもっと話させてやりてぇけど、店予約してっからそろそろ行くな」
「誤解だか「先輩、引き止めちゃってすみません!」
私が喋ろうとするのを遮って、彼女は「またお話聞かせてくださいね〜」と、眩しささえ感じる笑顔で盛大に誤解したまま人の波に消えていった。阻止を見事に阻止された。
「……竜胆さん、どうしてあんなこと言ったんですか」
「くれるっつーから、さっきもらった」
「何を……」
「これからのお前の時間」
私の腕にある時計を指差す竜胆さん。それに先程の料亭での会話が脳内に蘇る。
「回りくどい言い方、もうしねぇっつっただろ」
「あ、あんなのノーカンです!誰が聞いても今日この後の時間だと思う言い方だったじゃないですか!」
「お前が勝手に勘違いしただけ。つーか、俺に付き合うっつったし、俺ら一緒に生活してんだからなんも間違ってねぇじゃん」
愕然とした。本日、二度目のしたり顔に膝から崩れ落ちそうになる。
やられた──!
これは就寝の攻防戦で使った手だ。それを逆に返されてしまった。あの時、もっとちゃんと考えるべきだった。この人、絶対に「契約書よく読まずにサインしたのはそっちだろ」とか普段やってる。
回りくどい言い方をしないと言ったその口で、最高に回りくどい……というより、わかりにくい言い方をした竜胆さん。この上、事実の断片を使って事実と異なることを後輩に吹き込み、誤解を与えて別の事実を作り上げてしまった。今、私の事実の認識だけが違う。事実多すぎてゲシュタルト崩壊起こしそう。
「A?」
「竜胆さんの屁理屈語弊」
「あ?」
後輩が去って行った方を向いて呟いた私の頭に、大きな手が優しく乗っかった。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時