コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ38)

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【外解禁2】ページ38

「荷物、俺が持つから。先に鍵開けろ」

「そ、そこまでしてもらうのは」

「いいから！」

すごくぷんすかしてらっしゃる……。滲んだ寂しさはどこへやら。瞳は不機嫌一色に塗り替わった。

竜胆さんは、後部座席から軽々とダンボールを引っ張り出すと、それを担いでズカズカぷんすか先へ行く。
外の空気や太陽の暖かさなんて感じる暇もなく、私も慌てて竜胆さんの後に続いた。

「竜胆さん、待ってください！」

小走りで走っても追いつけない歩幅。部屋の前に着く頃には、息はすっかり上がっていた。肩で息をする私とは反対に、涼しい顔でダンボールを担いでいる体力オバ……竜胆さん。

「鍵、開けて」

促されて鍵を回して扉を開けると、出勤した金曜日と変わらない部屋の中。ただ、あの日と違うのはドアを開けた瞬間から、家の匂いが鼻を掠めること。それが二月という時間の長さを感じさせた。まるで人の家に来たみたいだ。

ふと浮かんで、いやいや、と浮かんだ考えを振り払うように慌てて首を振る。

これじゃあ竜胆さんの家が自分の家みたいじゃないか。

「なに一人で百面相してんの？」

「な、なんでもないです！」

目の前には、不思議そうな顔をしてこちらを見る竜胆さんがいる。

「？」

向かいあって数秒──、今度は私が同じ表情になった。

「竜胆さん？」

てっきり、ポイと荷物を置いて帰るとばかり思っていた。

お互いに同じような顔をしている私達。先に動いたのは竜胆さんだった。ほら、と差し出された手に竜胆さんの意図がわからず、とうとう首を傾げる。

「あの、これは……」

「メシ、まだだろ。行くぞ」

「え？」

悪戯顔で笑う竜胆さんの差し出された手を握り返すことはせず、固まってただただ竜胆さんの手をじっと見つめた。手相が大変にくっきりしている。