【約束どおり】 ページ29
昼にバタバタと忙しなく外出の準備をして、お兄さんと出ていった竜胆さんが帰ってきたのは22時を回ってからだった。
結局、昼の自分の発言を撤回する術はなく、寝支度を済ませた私は昼に言った言葉どおり竜胆さんと一緒にベッドの中にいる。一進一退の攻防の末、端まで追いやられた私は、また竜胆さんの手足に捕まっていた。当たり前のように抱き込まれて身動きが取れない。
「竜胆さん」
「あ?」
「なんでこうなったんでしょう」
「Aが一緒に寝るっつったんだろ」
そうだけど、何をどうやっても一緒に寝るだけじゃ抱き込まれるなんてことにはならないはずだ。近くに竜胆さんの息遣いが、ぬくもりが、匂いがある。
勘弁してほしい。こんなの、心臓がいくつあっても足りない。勿論、こんな状態で熟睡なんて無理。寝られるわけがない。
私には他人の心臓を取り込んで自分の心臓にする力はないし、心臓一個潰れたくらいじゃ死なないなんて特殊能力もない。一回止まったら終わりだ。
「竜胆さん、いくらなんでも勘違いするのでやめてください」
「勘違いしろよ」
「え?」
「……そんで、ちゃんとこっち向いて」
どこか頼りない声がする。離さないというように、しっかりと腕に締め付けられる。
竜胆さんの言葉が、隙間を縫うように胸に入ってきて、ドキリと強く心臓が跳ねた。
こんなのはズルい……。
ここにいるのは期間限定だ。それに私達は交わらない道の上にいる。
「ごめんなさい」
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時