【攻防戦2】 ページ25
考えを巡らせてもいい案は浮かばず、カチコチと壁にかけてある時計の秒針が進む音だけが部屋に響いている。横目にちらりと確認した時計は、秒針があと一周もすれば時刻を示す2つの針が半日ぶりに重なり合う。
追いかけてくる長い針。逃げるように先を行く短い針。どちらよりも速く動く針。
それを見て、名探偵のようにピシューンと頭を閃光が駆け抜けた。時計の針が、起死回生の一手をくれる。
「竜胆さん、わかりました。一緒に寝ましょう!」
シュバ、と項垂れていた頭が上がった。
「お風呂、まだですよね」
「行ってくる。先に寝んなよ」
「ちゃんと待ってます」
さっきまでのはなんだったのかと思うほど、竜胆さんが元気だ。元気にお風呂へ行ってしまった。聞こえてくるシャワーの音。それが止まるときが決行のタイミングだ。
これも攻防戦、防御率10割を死守して家に帰るため。失点なし。自責点ゼロ。隙きを与えず完封する。
「ごめんなさい、竜胆さん」
本人のいない部屋で、ぽつりと呟いた言葉に返事なんて返ってこない。明かりの点いた部屋、ソファの上で膝を抱えてシャワーの音が止まるのを待つ。
スウェットには、まだ竜胆さんの熱が残っている。それが肌にしっかりと伝わっていた。
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作者名:はいず | 作成日時:2022年7月31日 22時