コウモリ傘【灰谷竜胆】 (ページ18)

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【消すのは2】ページ18

「りんどー」

ノックなしに扉が開いて、昨日とは髪型の違うお兄さんがスウェット姿でひょっこりと顔を出す。

「ちゃんといたな」

そのまま部屋に入ってきたお兄さんは、スウェットの中に手を突っ込んで、あくびをしながら体を掻いた。機嫌は……悪くはなさそうだ。

スウェットの隙間から見えた竜胆さんとは逆向きの入れ墨は見えなかったことにしておこう。

「兄ちゃん！なんでこいつ連れてきたんだよ！」

勢いよく立ち上がる竜胆さん。

「あ？兄ちゃんの優しさだろ」

「あ゛？全部ぶっ壊してんじゃねぇかよ！」

「預かり知らねぇとこでお前じゃねぇ他の奴が殺ンの、許せんの？」

お兄さんの声のトーンが下がって、部屋の温度まで一緒に下がってしまったみたいだった。グッと竜胆さんが拳を握る。

「幹部連中は全員気づいてンぞ」

竜胆さんから「は！？」と大きな声が上がる。
どうしたらいいのかわからないのか、ヤバイと思っているのか。目はキョロキョロと泳いでいた。そんな竜胆さんに、お兄さんは表現を変えずに続ける。

「まあ、何のことかは分かってねェけど、お前が変だっつーのは全員把握してっから。カタギの女が関わったなんてバレてみろよ。後ろ暗いとこがない人間ほど平気で情報をリークする可能性がこっち側の人間より高ぇ。それ、梵天(うち)が許すと思うか？」

俺らもタダじゃ済まねぇぞ、と言ったお兄さんに竜胆さんは黙ってしまった。
詳しくはわからないけれど、竜胆さん達がいる世界はそういうところなんだろう。

私は、このまま海か山で人生に終わりを迎えることになるのだろうか……。

まだ、死にたくない──。
膝の上で両手を握った。

「で、こっからはお前な」

「え？」

「生きてこっから出た後に消えンのと、こっから出ずに消えて生きンの、どっちがいい？」

何食わぬ顔で、人生最大の選択を突きつけるお兄さんに体が固まった。

ギギギ、と油の切れたロボットのように、ぎこちない動きで振り返ると、昨日と同じように薄く笑っているお兄さん。隣を見上げると、じっとこちらを見下ろしている竜胆さん。その表情は、どこか焦っているように見えた。